最近まで優良企業とされたシャープは、長期資金は転換社債、短期資金はCPで資本市場から容易に調達できた。そのため銀行借り入れの依存度が低く銀行との関係は希薄だった。しかし、会社格付けの引き下げでシャープは、直接資本市場から資金を調達できなくなり、銀行借り入れという間接金融に頼らざるを得なくなった。4-6月期の短期借入金は3月期末に比べて1242億円増加した。増加分を負担したのは、みずほコーポと三菱東京UFJの2行だ。3月末の短期借入金残高は2123億円。4-6月期の急増ぶりは尋常ではない。危機感を募らせた銀行が全面に出てきた格好だ。
8月2日、13年3月期の連結最終損益見通しを、従来の300億円の赤字から2500億円の赤字(前期は3760億円の赤字)に下方修正したのを受けて、銀行団は発表済みの5000人規模の人員削減だけでなく、最大5000人の追加のリストラや資産の売却、テレビ事業の抜本的な縮小、太陽電池事業(太陽電池も当然赤字である)の構造改革を求めている。売却するのは10年3月に稼働したばかりの太陽電池関連の新鋭工場だ。太陽電池事業も12年4~6月期は69億円の営業赤字になった。液晶TV事業だけではなく、すべての出血(赤字)を止めろと、銀行団は要求し始めたのだ。人員削減は全従業員の2割に相当する1万人規模となる。
資産売却では海外にある液晶テレビ工場を鴻海に売却することになる。メキシコ、ポーランド、中国、マレーシアにあるテレビの組み立て工場が対象となる。この中からメキシコ、中国に絞り込んで9月中に結論を出す。これで鴻海からの出資の減少分の穴埋めをする腹づもりだった。
その一方で国内の取引先に優先出資証券や劣後債を発行して、資金の不足分を補う案も検討されている。だが、シャープの経営が安定するかどうかまったく不透明な段階で出資に応じる企業があるとは思えない。
シャープの再建問題が混迷を続けるなか、官邸が動いた。野田佳彦首相が8月5日、広島県福山市のLED照明を生産するシャープの工場を約1時間、視察した。7月末に閣議決定した日本再生戦略では、エネルギー・環境分野などを重点項目と位置付けており、省エネ・長寿命が特徴のLED照明の生産ラインを見ることにした、という名目になっている。
命がけで取り組むといっていた消費税増税法案の採決を前にギリギリの交渉が民主-自民両党の間で行われている最中、急きょ、シャープの工場に行った本当の狙いは何なのか。「シャープは潰さないという(政治的な)メッセージ」(金融筋)と受け取られているが、果たして野田首相のアナウンス効果のほどは? 野田首相のことだ。突如として「シャープを救う気持など、ありません」というかもしれない。