●米国への足掛かりがソニーの狙い?
そしてソニーモバイル、ひいてはソニー側の状況を見ると、やはり同社が主力事業と位置付けている、スマートフォンなどモバイル関連事業の急激な不振が、今回の販売には大きく影響したと見ることができそうだ。
ソニーは4~6月期連結決算で、スマートフォンの年間販売目標台数を5000万台から4300万台へと大幅に下方修正したのに加え、9月17日にはモバイル事業の減損により、15年3月期の連結最終損益が500億円の赤字から、2300億円の赤字へと大幅に下方修正。上場以来、初めて無配となるなどモバイル事業の急速な悪化にソニー全体が苦しんでいる。
これには、中国メーカーの台頭による新興国向けミドル・ローエンドモデルの不振が大きく影響している。ソニーモバイルは新興国を狙った市場拡大が難しくなったことから、再び先進国主体のハイエンドモデルに集中することで収益向上を目指すようだ。
だがハイエンドモデルで収益を拡大するにしても、従来通りの取り組みだけでは難しいことから、販路の拡大が必要になる。そこで、「Xperia」ブランドの端末販売が好調の日本で確実に販路を拡大するのが得策と判断し、ソフトバンクへの端末供給に至ったのではないだろうか。
さらにその先には、ソフトバンクが持つ米スプリントへの端末供給も見据えているかもしれない。ソニーモバイルは先進国のうち、日本と欧州には販路を持つが、より大きな市場となる米国に関してはブランド力が非常に弱く販路も少ないなど、同社にとって開拓が難しい市場となっている。実際米国市場において、ソニーモバイルはアップルやサムスン電子だけでなく、個性派モデルで存在感を発揮する京セラにさえ及ばない状況だ。
それゆえ、米国に販路を持つソフトバンクとの接点を作ることで、将来的に米国市場への足掛かりを強化したいという狙いもソニー側にはあるかもしれない。もっとも、今回の「Xperia Z3」に関して、ソフトバンクは日米の共同調達ではなく、あくまで日本のみのため、実際にスプリントからソニーモバイルの端末が登場するかどうかは不明だ。
両社の不調から思惑が一致し実現したと考えられる、ソフトバンクによる「Xperia Z3」販売。だが、ソフトバンクは「Xperia」を販売するのが初めてなだけに、どの程度注力するのか、またそれによって販売を順調に伸ばせるかは、正直なところ未知数だ。両社の業績回復を占ううえでも、まずは販売に対する本気度が問われるだろう。
(文=佐野正弘/ITライター)