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好調・野村不動産、業界異例の即日完売の秘密 脱マンション戦略に懸念も

文=福井晋/フリーライター
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好調・野村不動産、業界異例の即日完売の秘密 脱マンション戦略に懸念もの画像1「プラウドタワー立川 公式サイト」(「野村不動産 HP」より)
 国土交通省が9月18日に発表した基準地価(7月1日現在)は、三大都市圏が前年比0.8%上がり、2年連続の上昇となった。住宅地が6年ぶりに上昇したほか、商業地も上昇率が伸びた。

 地価上昇の影響で息を吹き返したのがマンション業界だ。三大都市圏では昨年から大型マンション建設ラッシュが続いている。中でも特に元気なのが野村不動産ホールディングスだ。

 同社が東日本旅客鉄道(JR東日本)中央線の立川駅前に建設、7月12日に発売した大型マンション「プラウドタワー立川」の第1期販売(230戸)は即日完売した。「郊外で、しかも都心より高価格なのに、どうして即日完売できるのか」と、マンション業界関係者を一様に驚かせた。

 不動産経済研究所の調べでは、今年1~7月に発売された東京23区内のマンションの坪当たり平均単価は290万円だが、それに対してプラウドタワー立川は342万円で、立川駅周辺の平均単価と比べても30%程度高い。業界関係者が驚くのは当然だ。

 無論、これには理由がある。同マンションは2016年8月竣工予定で、立川駅に直結する地上32階建て。うち、9~32階が住居マンションで、3~7階にはヤマダ電機が入居、1階には行政窓口サービスが設置される予定の複合型マンション。つまり、住宅、商業施設、公共機関が一体化した利便性が1つ。もう1つ、入居者が自分の好みに合わせ、間取りを無償でアレンジできる「ライフスタイルセレクト」を採用している点も挙げられる。

 つまり「生活の利便性と、自由な間取りがマンション購入者の人気を集めた」(同社関係者)というわけだが、これだけの理由で即時完売を説明するのはいささか難しい。そこにはやはり、同社が即日完売に全力を挙げてきた背景がある。

即日完売を支える製販一体体制

 用地買収から竣工まで1~3年かかるのがマンション開発事業。仕込みから出荷まで時間がかかるので、販売は市況変動の影響を受けやすい。好況時は即日完売も可能だが、不況時は売れ残りが珍しくない。したがって「マンションに定価はない」が業界の常識。好況時は周辺相場より高値でも売れる半面、不況時は周辺相場より何割も安くしなければ売れない。このため、不況時には「あと半年辛抱すれば好況の波が戻ってくるはず。それまで待て」と、営業担当者に販売活動を停止させるマンション開発業者もいる。

 そんな業界で野村不動産が即日完売をマンション開発事業の至上命題にしているのは「即日完売で事業資金を早急に回収、次のマンション開発投資に回す」のが目的だ。加えて、即日完売ならモデルルーム開設、広告宣伝などの販促費を最小限に抑制できるメリットもある。

 その背景には、独立系ならではの事情がある。それは財務基盤の弱さだ。三井不動産レジデンシャル、三菱地所レジデンス、住友不動産の財閥系大手3社と異なり、1957年に野村證券から分離独立して不動産事業に参入した野村不動産の場合は、親会社から承継した事業資産はゼロに等しい。このため、わずかな事業資産を有効に生かそうと頭を悩まし続けてきた。その結果、02年にマンションブランドを「プラウド」に統一、マンション開発を主力事業に定めてからは即日完売を至上命題に「資金回収・投資」の短サイクル化で事業規模を拡大してきた。実際、それは「契約進捗率」からも明らかだ。同社は昨年度約6000戸のマンションを発売したが、その約80%を「期初売約済み」にしている。

 好不況にかかわらず、それを可能にしているのが同社独自の「製販一体体制」といわれている。開発案件が決定すると、用地買収、建築、営業の各担当者が集まり、マンションのコンセプトや外構、間取り、内装から価格帯に至るまで綿密に打ち合わせるのが同社製販一体体制の特徴。そうすることで開発案件の青写真が担当者全員に見え、おのずと用地買収額の上限が決まり、適正販売価格も定まってくる。

 マンション業界では、高値つかみした用地の買収資金を回収するため、市況を無視した価格設定で売れ残りを続出させて赤字に陥るケースが珍しくないが、製販一体体制ではこうしたリスクを回避できる。また、営業部門も開発スケジュールが用地買収前からわかるので、広告宣伝などの販促活動を最適なタイミングで開始できる。このことも即日完売率の高さにつながっている。

 業界関係者は「加えて、野村證券の営業DNAを引き継いだ『詰める文化』もある。完売できなければ、上司から『なぜ売れないのか』と徹底的にしごかれる」と苦笑いする。

 即日完売方針と製販一体体制が功を奏し、同社のマンション販売戸数は近年上昇し続けている。例えば、10年3月期に4111戸だった販売戸数は14年3月期に6209戸となり、過去5年間で51%もの増加を示し、15年3月期は過去最高の7000戸販売を計画している。

真の課題は資産リスク管理能力の向上

 マンション開発事業の好調に支えられ、14年3月期連結業績は売上高が前期比2.8%増の5320億円、営業利益が同27.4%増の743億円となり、ともに過去最高を記録。同社は中期経営計画で16年3月期に「営業利益650億円達成」を目指していたが、この目標を2年前倒しで上方修正達成したかたちだ。

 前途洋々に見える業績だが、懸念もある。それはマンション開発事業依存度の高さだ。14年3月期の場合、住宅事業(大半がマンション開発)の売上高比率が56.9%、同営業利益比率が40.8%となっている。

 そもそもマンション開発事業は仕込み(用地買収)も販売も景気動向に左右されやすく、事業の安定的成長度が低い。社会が人口減少に進む中、マンション需要の先細りも予想される。このため、同社では「非住宅事業の強化」が中期的課題になっている。

 具体的には、マンション開発事業を7000戸販売水準で持続した上で、賃貸事業(賃貸オフィスビル・商業施設・物流施設開発)とサービス事業(資産運用受託、不動産物件仲介)を強化、22年3月期までに「マンション販売で一喜一憂しない事業体質に転換する」(同社関係者)成長シナリオを描いている。

 この「脱マンション依存」において、同社が今期から注力しているのが都心部の大規模再開発や複合商業施設開発に絡む賃貸事業だ。同社は賃貸事業を「収益不動産開発事業」と位置付けている。現在、東京・西新宿三丁目再開発計画、日本橋一丁目再開発計画など約10案件が進行中だ。

「仕込んで、売ったら終わり」のマンション開発事業と異なり、同事業は長期間にわたって収益が担保されており、安定性が高い。今年4月には専任部門の「開発企画本部」を新設、同事業強化に投資をシフトしている。そのための財務体質も出来上がってきた。例えば自己資本比率は09年3月期の17%から14年3月期は27%と大幅に増加、15年3月期はさらに30%に改善する見込みだ。

 だが、賃貸事業の強化は、賃貸オフィスビルなど保有資産の増加を意味する。それは取りも直さず、不動産市況の変動リスクを抱え込む結果となる。脱マンション依存の戦略転換を成功させるには「事業拡大と資産リスク増大のジレンマ。これをいかに解決するかがキーポイント」(証券アナリスト)になりそうだ。
(文=福井晋/フリーライター)

福井晋/経済ジャーナリスト

福井晋/経済ジャーナリスト

1948年大阪市生まれ。ITビジネス誌記者、ビジネス総合誌編集長などを経て2001年よりフリーに。マーケティング論が専門。これまで上場企業を含め1000名以上の社長に経営戦略を取材。

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