肥後銀、鹿銀という意外な組み合わせは、銀行業界では驚きをもって迎えられた。これまで地銀再編は、不良債権処理で経営が行き詰まった中小銀行の救済が主流で、経営的に追い込まれてもいない健全な地銀が再編に動いたのは想定外と受け止められた。統合話が進んだ背景には、肥後銀の甲斐隆博頭取と鹿銀の上村基宏頭取の人間関係も大きい。2人は慶應義塾大学商学部の同窓生で、同時期にそれぞれの銀行の福岡支店長を務めて親交があった。3~4年前から銀行の将来像について議論を重ねて徐々に距離を縮め、今年2月には共同で地域活性化のためのファンドを設立。4月以降、統合に向けた検討を本格化させたという。
●金融庁とゆうちょ銀行上場が後押し
金融庁は地銀再編の動きを後押ししている。昨年12月に金融庁が地銀トップに配った「金融機関の将来にわたる収益構造の分析について」という1枚のペーパーが、地銀の背中を押した。森信親検査局長(当時、7月の人事で監督局長に昇格)の肝いりでつくられたことから「森ペーパー」と呼ばれる。縦軸に各地銀が基盤を置く地域の将来的な市場規模の縮小度合いを、横軸に現状の収益性を取ったグラフで、各行の立ち位置がはっきりと点で表示されている。
個別の銀行名は記されていないが、どの銀行を指しているかは一目瞭然。このペーパーを基に今年1月、金融庁の畑中龍太郎長官(当時)が「大変多くの銀行で、すでに黄色信号がともっていることが、はっきり見て取れる。業務提携、経営統合を経営課題として考えてもらいたい」と迫った。「再編相手の候補を決めて、具体的な交渉に動かねばならない時が来た」(地銀関係者)と腹をくくった地銀トップが多かった。
ゆうちょ銀行が上場を目指していることも、地銀再編に拍車をかけた。地銀にとって最大の競合相手はゆうちょ銀行であり、預金量では後者が圧倒的なシェアを握る。ゆうちょ銀の預金残高は熊本県が2兆2107億円、鹿児島県が2兆294億円。これに対して肥後銀は3兆8284億円、鹿銀は3兆2917億円(いずれも14年3月末)。県内に限れば、肥後銀、鹿銀ともに預金残高はもっと少ない。地方都市の繁華街に設置されているATMコーナーでは、ゆうちょ銀のATMには都銀や地銀よりも長い行列ができるのはおなじみの光景だ。そんなゆうちょ銀が上場でさらに勢いに乗れば、肥後銀と鹿銀にとっては脅威となるため、今回両行は統合に踏み切った。