●優先された産業革新機構の資金回収
業績のアップダウンを繰り返すJDIは、なぜ上場できたのか。同社はスマホやタブレット向けの中小型液晶パネルを手掛ける会社として、日立製作所、東芝、ソニーの中小型液晶パネル事業を統合し、12年4月に発足した。この分野はサムスン電子と台湾企業の寡占状態で、日本勢は太刀打ちできなかった。本来なら3社は事業を売却して撤退するところだったが、経済産業省が待ったをかけた。政府系ファンドの産業革新機構が2000億円を出資し、3社の中小型液晶パネル事業を統合して再生に乗り出した。つまりJDIは実質的には国策企業だったのである。
統合後はスマホ市場の急拡大という追い風に乗り、米アップル向けのパネル供給が急増し、業績は回復した。それまでの赤字経営がウソであるかのように14年3月期の最終損益は339億円の黒字を出した。その勢いでJDIは新規公開したが、目的は産業革新機構の資金回収にあった。JDIは革新機構が86.6%の株式を保有しており、機構の出資金の原資は税金。上場により、早期に出資金を回収する必要があった。
機構はJDIの上場の際に、保有株の過半数を売却。出資金の2000億円を回収した。保有比率は86.6%から35.8%に減った。株価は10月末に311円の上場来安値に落ち込んだが、それでも革新機構は継続保有している株式を売れば、株価400円換算で800億円程度のキャピタルゲイン(売却益)が手に入る計算だ。また、株式公開によりJDIの母体である日立、東芝、ソニーが持ち株を売り抜け、キャッシュ(現金)を手にした。その一方で株価下落のツケは個人投資家に回した。
●生き残りのため安値受注か
JDI社長の大塚氏は米テキサス・インスツルメンツ(TI)工場長やソニーのシステムデバイスカンパニーのプレジデントを務めてきた。TI時代の先輩であるエルピーダメモリの坂本幸雄社長に誘われJDIに転じ、坂本社長の側近として日本で唯一のDRAM専業メーカー、エルピーダメモリの最高執行責任者(COO)に就任した。だが、エルピーダは12年2月、会社更生法を申請して倒産。業界に通じている点を買われ、大塚氏はJDIの社長に就任した。
就任当初からエルピーダメモリの二の舞いを演じるのではないかとの冷ややかな見方が市場関係者の間には強かったが、予想通り、業績の下方修正を繰り返した。大塚氏は「結果を出して信頼を取り戻すしかない」としているが、足元の株価は公募価格のおよそ4割の水準に低迷したままだ。アジアのスマホメーカー4社と大口契約を結び、シャオミとは今夏に発売した新型モデルで取引を始めたが、「JDIは1枚当たり20ドル強だったスマホ用パネルを10ドル台に下げて供給している」(市場関係者)ともいわれている。
スマホ向けのパネルの価格競争がこれから本格化する中、JDIにとっては厳しい環境が続きそうだ。
(文=編集部)