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まるでミスド…セブンの新主力ドーナツ、ここまで似てると問題では?ミスドは歓迎の謎

文=伊藤歩/金融ジャーナリスト
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まるでミスド…セブンの新主力ドーナツ、ここまで似てると問題では?ミスドは歓迎の謎の画像1ローソン店舗内のドーナツ販売コーナー
「まるでミスド」――。10月下旬から関西のセブン-イレブンの店舗での導入が始まった「セブンカフェドーナツ」。最寄りの専用パン工場の専用設備で1日2回生産、製造後3時間以内に店舗に配送し、店舗には専用ボックスをレジ横に置いて販売する。「ざくざく」「ふんわり」「もちもち」の3種類の食感の商品を揃え、製造方法も配送時の包装形態も商品特性に合わせたものを採用。専用ボックスは最適な湿度、温度管理機能を備えたものを使うという。

 セブンカフェの爆発的なヒットで缶コーヒー市場が大打撃を受けたことは記憶に新しい。セブンの参入でドーナツ市場勢力図が変わる可能性を秘めているだけに、話題性は十分。インターネットで実際に購入したユーザーによる数ある書き込みをみてみると、共通する感想が冒頭の「まるでミスド(ミスタードーナツ)」である。

 セブンカフェドーナツは、来年8月までに全国のセブン店舗で販売が始まる計画で、東京都内はまだ試験段階。扱っている店舗はわずか10カ所であり、どの店舗で売っているのかは「今扱っているのは年明けから販売する商品と異なるし、まだ実験段階なので非公開」(セブンを展開するセブン&アイ・ホールディングス広報)。筆者の行動半径上にあるセブンの店舗数カ所でヒアリングをかけてみたところ、「どこで売っているのかは聞かされていない。少なくとも東京都内のFCで扱っているところがあるという話は聞いたことがない」「ここ数日、よく聞かれるが、東京の店で扱えるようになるのは年明け以降だと聞いている」といった答えが返ってきた。

 このため、11月27日にセブン自身が開示したリリースに掲載されている写真や、HP上の商品説明ページで確認したところ、本当に「まるでミスド」だった。リリースに載っていたのは、「チョコオールドファッション」「もちもちいちごリングドーナツ」「もっちリングドーナツ」など6種類だが、HP上には全部で11種類が掲載されていた。チョコオールドはミスドの「チョコファッション」にうり二つ。もちもちいちごは同「ポン・デ・ストロベリー」によく似ている。ただ、ポン・デ・リングがボール型の生地を8個リング状に連結した形をしているのに対し、もちもちいちごは5個連結。だが、セブンの「もちもちスイートリングドーナツ」は、ミスドのポン・デ・リングと同じ8個連結。見た目はうり二つだ。セブンの「ふんわりリングドーナツ」もミスドの「ハニーディップ」によく似ている。

 現時点では商品を入手できないので味や食感まで似ているのかどうかはわからないが、少なくとも形状や大きさが多数の書き込み通り「まるでミスド」であることは間違いない。しかも値段は基本的に税込みで100円。ミスドは最低でも110円、主流は140円以上なのでかなり割安だ。

日本人にとってのドーナツはミスド?

それにしても、ここまでミスドの商品に似ているのは問題ではないのか。ミスドの米国本社から訴訟を起こされることはないのだろうかという疑問が湧くのだが、実はその可能性はゼロ。というのも、ミスドの製品は1984年以降に新たに発売になったものはすべて日本のミスドのオリジナル商品だからだ。

 ミスドはダスキンが米国のミスター・ドーナツ・オブ・アメリカ社とのライセンス契約に基づき、71年にダイエー箕面店の店内に1号店をオープンさせている。13年後の84年に日本国内でのライセンス権を完全取得したため、もはや米国本社にライセンスーフィーを払うことも、メニューや運営方針でお伺いを立てることもなく何をしてもよくなった。従って、84年以降に新規発売された製品はすべて日本のミスドオリジナルということになる。飲茶を始められたのも、ライセンス権の完全取得あればこそだった。ちなみに、89年には環太平洋地域におけるライセンス権も取得しており、同地域では日本のミスドがフランチャイズ本部になっている。

 米国ミスド最大のライバルはダンキンドーナツだったのだが、実はミスドとダンキンはルーツは同じ。双方の創業者は妻同士が姉妹だったという関係。経営方針の違いから妹のほうの夫だったハリー・ウィノカーがスピンアウトして始めたのがミスドである。ダンキンの日本上陸はミスドと同年の70年で、1号店の開店はミスドの1号店開店の5カ月後。組んだ相手はセゾングループで場所は銀座。この時点で米国ダンキンの企業規模は米国ミスドの5倍。その後米国ミスドは経営不振に陥り、90年に米国ダンキンに吸収されて会社は消滅、現在米国内にミスドの店舗はないもよう。

一方、日本国内ではダンキンはミスドの後塵を拝し、経営母体もセゾンから吉野家に移り、その吉野家が業績不振を理由に撤退を決めたのが98年。以降、ミスドには明確な競合相手がなくなっている。日本のミスドがライセンス権を完全取得できたのは、米国ミスドの経営不振と無関係ではないだろう。ミスドとダンキンは売っていたものもそっくりで、コアなファンなら判別できたのかもしれないが、筆者にはミスドとダンキンのドーナツは同じに見えて、区別がつかなかった。

 筆者は62年生まれなので、十分に物心がついてからミスドやダンキンの「アメリカンドーナツ」を知った。それまでは近所のパン屋自家製の、今でいうケーキドーナツこそがドーナツだった。だが、ミスドやダンキンが広く普及してからこの世に誕生している世代にとっては、ミスドやダンキンのドーナツこそがドーナツ。ダンキンが姿を消してから生まれた世代にとっては「ミスドがドーナツ」だろう。

ミスドもクリスピーも歓迎モード

 それなら日本のミスドがセブンを訴える可能性があるのかというと、それもない。ミスドの“そっくりさん”がコンビニエンスストアの店頭に並ぶのは今回が初めてではないからだ。日本上陸当初もしくは上陸から数年内に販売を開始し、現在も売られ続けているハニーディップやオールドファッション、フレンチクルーラーといった人気メニューは、ダンキンでもそっくりなものが売られていたが、それが問題になったことはない。コンビニの菓子パンコーナーなどに置いてある袋詰めのドーナツでは、かなり前からミスドの酷似商品が売られている。

商標登録は商品名のほか、形状や製法でも取得することが可能だが、ミスドは「商品名での登録は一部あるが、形状や製法では登録をしていない」(ミスド広報)という。「類似しているドーナツの形状や名称がミスド特有のもので、そのドーナツを見ればミスドのドーナツであることが想起できる程度の周知性が認められれば、不正競争防止法に抵触するおそれがある」(不正競争防止法に詳しい上山浩弁護士)のだが、長期間酷似商品の流通を放置してきた以上、その主張も難しい。

 そもそもマネされたミスド自身がまったく問題視していない。それどころか、今回のセブン参入に対してはむしろ歓迎モード。

「(ミスドは)専門店として40種類の製品を常時店舗に置いており、店内で調理して揚げたてを提供している。店内での居心地も追求しており、テイクアウトメインのセブンとは対象にしている市場が違うから、競合はしない。(セブンの)参入によってドーナツへの関心が高まることを期待している」(ミスド広報)

 確かに、スターバックスコーヒーにもハニーディップと形も大きさもよく似た「シュガードーナツ」があるが、こちらは210円もする。それでも居心地の良さを求めてスタバにやってくる顧客は、値段の高さを気にせず買う。

 それではクリスピー・クリーム・ドーナツはどうか。同社の製品は知らずに不用意に持つと、ぐしゃりと潰れてしまうほど生地がふわふわしていて柔らかい。ミスドにはこの食感のメニューはない。トッピングも派手で、こちらはテイクアウトが中心。専用ボックスはそのカラフルで派手なドーナツを平置きできるようになっており、「ふたを開けたときのサプライズ感がセールスポイント」(クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパン広報)。基本の「オリジナル・グレーズド」という揚げた生地にシュガーソースをまぶしたドーナツが160円と、ミスドと比較してもだいぶ高い。写真で見る限り、セブンのもっちリングドーナツが近い食感である可能性があるが、こちらも「ドーナツに関心を持ってもらえる可能性があるので歓迎」(同)だそうだ。

すでに始まっているコンビニ・ドーナツ戦争

 以上のようにドーナツ専門各社が余裕の姿勢をみせる中、現時点で対セブン戦闘モード全開なのは同業のコンビニ大手だ。

 ローソンは一部の店舗で菓子パンコーナー付近に大々的に袋入りのドーナツコーナーの設置を開始している。全部で7種類揃えているが、このうち5種類が“ミスドそっくりさん”で6種類が税込みで100円。チョコレートがけした「オールドファッション」や「シュガードーナツ」など、ミスドの人気メニューにフォーカスしたような品揃えだ。「モッチリングいちご」はミスドのポン・デ・ストロベリーと同じ8個連結という点でセブンよりも似ている一方、トッピングはなし。名称はセブンのもちもちいちごリングドーナツとは微妙に変えてあるが、よく似ている。セブンのメニューにはない「フレンチクルーラー」もローソンにはある。

ファミリーマートローソンほど熱心ではないが、菓子パンコーナーにチョコレートがけした「オールドファッション」「フレンチクルーラー」「モッチリングドーナツ(ストロベリー)」を置いている。こちらは税込みで108円~120円。モッチリングは、ミスドのポン・デ・ストロベリーによく似ている。トッピングはポン・デ・リースストロベリーと、ポン・デ・ストリベリーの中間くらいの派手さ。

一番控えめなのはサークルKサンクスで、ここはチョコレートがけのオールドファッションのみで、値段は税込み108円。

 ちなみに以上のコンビニの袋入りドーナツ商品の製造元はすべて山崎製パンだが、なぜか同社が運営するデイリーヤマザキでは見かけない。セブンでもこれまで、袋入りでは継続してミスドの酷似商品を提供してきたが、「製造、配送、店頭での品質管理によって、袋入りでは実現できなかった品質レベルを実現できる」(セブン&アイ・ホールディングス広報)点がセブンカフェドーナツのウリだという。レジ横に置いて、ついで買いを誘引することが主要目的ではないということらしい。

 筆者個人の見解として、セブンのアドバンテージを挙げるとすると、それはカロリーだ。チョコレートがけのオールドファッションで比較すると、セブンが339kcalで、ローソンの袋売りが392kcal、ファミマが495kcal、サークルKが492kcal。ドーナツは食事にはなりえず、小腹がすいた時に買うおやつの類は350kcalを超えてくると引いてしまう。いまどきは男性でもカロリーを気にして、きちんとコントロールをしている。

 コンビニ同士の勝敗もさることながら、顧客に安定的に受け入れられるのかどうか。カギを握るのは「間食への罪悪感をいかに緩和するか」ということではないだろうか。
(文=伊藤歩/金融ジャーナリスト)

伊藤歩/金融ジャーナリスト

伊藤歩/金融ジャーナリスト

ノンバンク、外資系銀行、信用調査機関を経て独立。主要執筆分野は法律と会計。主な著書は『優良中古マンション 不都合な真実』(東洋経済新報社)『最新 弁護士業界大研究』(産学社)など。

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