スゴすぎるタワシの秘密?高性能で特許取得、外国人デザイナー起用…転身組が仕掛ける革命
「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画や著作も多数あるジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、経営側だけでなく、商品の製作現場レベルの視点を織り交ぜて人気商品の裏側を解説する。
「谷根千(やねせん)」の別名で知られる東京の下町、谷中・根津・千駄木地区は散策場所として人気だ。森鴎外や夏目漱石など文豪が住んでいた街でもあり、近年はデートスポットとして気軽に入れそうな飲食店が次々に出店している。
11月29日、不忍通りから一歩裏に入った細い道沿いの谷中2丁目にオープンしたのが「亀の子束子 谷中店」だ。同店を運営する亀の子束子西尾商店はタワシメーカーの代名詞的存在として知られ、今年で107年の歴史を刻む会社である。
その老舗が、なぜ直営店を開いたのか。背景には、老舗製造業が直面するいくつかの事情があった。
●信頼の伝統、若い世代への浸透が課題
まずは亀の子束子の発明秘話を簡単に紹介しよう。
5代目で現社長の西尾智浩氏の曽祖父である正左衛門氏は、当時製作していたシュロ(ヤシ科の植物)で編んだ靴拭きマットに「足で踏みつけるとつぶれてしまう」と客から苦情が殺到し、大量の在庫を抱えて困り果てていた。
ある日、妻のやす氏がマットの部材を丸めて掃除する姿を見て、正左衛門氏はシュロを利用して掃除する道具を思いつく。それが1907年に発売した亀の子束子の開発につながったのだ。原料はやがてココナツヤシの実の繊維に替えたが、現在はヤシとシュロそれぞれを用いた商品が揃っている。
驚くのは、製造方法が明治時代から現代までほぼ変わらないことだ。多くは手作業で、一般的な用途のタワシでは、厳選されたヤシの実の繊維を針金に巻き込み、刈り込み機にかけて繊維の毛足を整えた後で折り曲げ、帯縄をかけて仕上げる。これを職人の分担作業で行う。