大塚は、昨年12月12日から実施していた米製薬ベンチャーのアバニアファーマシューティカルズ(以下、アバニア)へのTOB(株式公開買い付け)を1月13日に完了、同日付で完全子会社化した。買収額は、アドバイザリー費などの諸費用を含めて約35億6000万ドル(約4200億円)と伝えられた。
この買収額は、日本の製薬業界でも過去5番目に大きい規模だ。大塚は、主力製品である「エビリファイ」(抗精神病薬)の米国での特許が4月末で切れる。巨額を投じたアバニアの買収は、そのエビリファイに代わる主力製品の開発が目的といわれている。
アバニアは、2011年に世界で初めて情動調節障害(感情を制御できずに、突然笑い出したり泣いてしまう病気)の治療薬「ニューデクスタ」を米国で発売した。同薬は13年7月から14年6月までの1年間で9400万ドル(約111億円)を売り上げている。
しかしながら、大塚がアバニアを買収したのは、このニューデクスタ獲得が目的ではない。大塚の目当ては、アバニアが開発中のアルツハイマー型認知症の行動障害治療薬「AVP-786」にある。アルツハイマー型認知症患者の約50%が発症するといわれている暴力、罵声などの行動障害には有効な治療薬がなく、AVP-786の製品化が成功すれば、大塚の次期大型製品(年間売上高1000億円以上の医薬品)に育つ可能性が高いのだ。
大塚はもともと精神疾患関連治療薬に強く、現在もアルツハイマー型認知症の治療薬を3件開発中だ。昨年12月2日に行ったアバニア買収発表の記者会見で、樋口達夫社長は「当社は、精神疾患分野で強力な治療薬を有している。アバニアを傘下に収めることで、中枢神経分野の医薬品事業拡大を加速できる」と述べ、エビリファイの次の成長ドライバーにアルツハイマー型認知症関連治療薬を据える基本戦略を明らかにした。
だが、株式市場の反応は冷ややかだった。「買収額が明らかに高すぎる」と発表翌日の12月3日の大塚株は下落し、一時は前日比5.6%安で売られた。大手証券会社アナリストは「AVP-786に対する大塚の期待は理解できるが、まだ開発中で製品化できる保証もなく、不確実性が高すぎる」とアバニアの巨額買収に懸念を示した。
●大塚の不安定な事業ポートフォリオ
実際、アバニアの業績は本格的に事業を開始した12年9月期から14年9月期までの3期中、売上高こそ急伸(12年9月期の4128万ドルが14年9月期は2.8倍増の1億1503万ドル)しているが、営業損益も最終損益も3期連続の大幅赤字を記録している。前出のアナリストは「ニューデクスタの販促費急増、AVP-786の開発難航などで台所は火の車で、会社が売りに出されるのも当然です」と苦笑する。
そんな内情が知られるにつれて、株式市場では「大塚はエビリファイ消失の穴埋めに大ばくちを打った」との声が強まっている。同社は、本当に賭けに出たのだろうか。
大塚は大塚製薬、大塚食品、大鵬薬品工業など100社以上のグループ会社を統べる持ち株会社だ。製品としては「オロナミンCドリンク」「カロリーメイト」「ボンカレー」などが有名である。このため、一般的には食品・飲料メーカーのイメージが強いが、主力事業はあくまで医療用医薬品だ。