直近の14年3月期連結決算の場合、売上高1兆4528億円のうち医療用医薬品関連事業を手がける「医療部門」の売上高が1兆351億円を占めている。割合としては全体の71.2%だ。また、医療部門の営業利益は2128億円に上り、営業利益全体(営業赤字部門や全社・消去を除く)の86.7%を稼ぎ出している。
一方、食品・飲料などを手がける「消費者部門」の売上高はわずか439億円にすぎず、しかも22億円の営業赤字に陥っている。
株式市場関係者が、アバニア買収に強い懸念を抱くのは、大塚のこうした事業ポートフォリオの不安定さにある。連結売上高の71.2%を占める医療部門の売り上げ内訳を見ると、エビリファイの売上高が5757億円で同部門全体の55.6%を占めている。
ほかに売上高1167億円のがん治療薬、同1034億円の臨床栄養医薬品と大型商品が2点あるが、エビリファイの売上高には遠く及ばない。前出のアナリストは「そんな状況でアバニアを抱え込んだ。難航している同社の新薬開発が失敗すれば、その瞬間に4200億円の買収額が巨額負債に変わる」と指摘する。
●新中計も不安要素だらけの大塚
02年発売のエビリファイは、現在世界60カ国以上で販売され、世界の全医薬品売り上げランキング7位を誇る。同薬の世界売り上げの79.1%を占める米国市場では、13年の全医薬品売り上げランキング1位に輝いている。このドル箱製品が、4月末に米国で特許切れを迎えるわけだ。
米国では、特許切れを迎えた医薬品はジェネリック(後発)医薬品への切り替えが一気に進み、特許切れから1年以内に売り上げの80~90%が消失する「パテントクリフ(特許の崖)」に直面するのが通例といわれている。
主力製品の特許切れによる業績落ち込みリスクは、いわば製薬会社の宿命だ。大塚もパテントクリフを見越し、昨年8月に発表した新中期経営計画(14~18年度)では、16年度の売り上げ目標を14年3月期実績18%減の1兆1900億円に下げ、最終の18年度に1兆4400億円に戻すV字回復計画を立てている。
この業績V字回復のエンジンは、もちろんアバニアの製品ではなく、エビリファイの注射タイプ「エビリファイメンテナ」、エビリファイの後継に位置付けている統合失調症治療薬「ブレクスピプラゾール」、腎臓の希少疾病治療薬「サムスカ」などの新薬だ。
だが、これらの新薬がV字回復計画にどれだけ寄与するかは予断を許さない。「すべては、発売してみなければわからないことだらけ」(前出アナリスト)なのだ。
●株式市場から求められる説明責任
そんな中、大塚はどうしてアバニアを買収したのかという疑問が再び湧いてくる。
大塚がアバニア買収の検討を始めたのは、13年春。「それから1年半以上の時間をかけてアバニアが開発中のAVP-786の市場性や競争力の分析、評価をしてきた」(大塚関係者)という。その結果「新薬としての有望性を確認できたので買収に踏み切った」ようだ。
樋口社長も前述の記者会見で「アバニアの収益貢献は、19年度以降の中期計画期間になる。短期間での投資回収は考えていない」と明言している。製薬業界関係者は「樋口社長には、5月以降のパテントクリフによるダメージをエビリファイメンテナなどの新薬で和らげられる、という成算があるのだろう」と推測する。
大塚が株式を上場したのは、4年前の10年12月だ。同社の源流である大塚製薬工場を1921年に設立以来、目先の利益を追わない長期的視野に立った堅実経営で、牛歩のごとく一歩一歩着実に成長してきた。しかし、上場した以上は短期的な結果を求める投資家の圧力や市場関係者の批判にさらされる。そして、その説明責任も求められる。
アバニアの買収がばくちだったのか、長期的視野に立った戦略的なものだったのか。その評価は、新中計の進捗状況で大きく変わってくるだろう。同社の経営は今後、株式市場の厳しい目にさらされることだけは確かなようだ。
(文=福井晋/フリーライター)