販売するつもりのなかった商品、なぜヒット?町工場の型破りの開発&資金調達
「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画や著作も多数あるジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、経営側だけでなく、商品の製作現場レベルの視点を織り交ぜて人気商品の裏側を解説する。
「神奈川県内の自治体が資金調達法として、インターネットで小口資金を募る『クラウドファンディング(CF)』を活用する動きが活発化してきた」
2014年12月11日付日本経済新聞に掲載された記事の冒頭部分だ。同記事では「神奈川県内では金型・板金加工のニットーがスマートフォン(スマホ)用の特殊ケースを製作するため、CFを活用した事例などがある」と報じていた。
実は、この事例は、長年にわたりプレス金型設計製作や機械部品加工を担う下請け工場が、初めて自社オリジナル商品を開発したというものだった。
●遊び心から生まれたスマホケース
横浜市の中心部から離れた海沿いを走る鉄道・シーサイドライン。ニットーの最寄り駅は同沿線の鳥浜駅である。外観は町工場の雰囲気が漂い、創業は1967年と半世紀近い歴史を刻む。
そんな同社が12年8月に開発したのが「トリックカバー」と呼ぶ商品だ。米アップル・iPhone 4用のカバーとして自社の公式サイトで発売した。同商品は、本体を覆うケースと自由に回転・移動するカバーにより、iPhoneをヌンチャクのように振り回すことができる。角度を変えて自立スタンドとしても機能する。発想のヒントは、ペン回しやジッポライターの操作だったという。
その後も後継機種対応型を開発し、現在はiPhone 6やiPhone 6 Plus向けカバーも販売している。累計の販売数は1万個を超えた。
もともと本業の合間に好奇心で製作しただけで、販売するつもりはなかったという。それが同社の二代目社長・藤沢秀行氏が操作する姿をフェイスブックに掲載したところ、「面白い」「社長はドヤ顔だ」と評判を呼び、販売しないのかとの問い合わせが寄せられ、発売に至った経緯がある。「無駄にかっこいい」をキャッチコピーに掲げ、人気に火がついた。
「話題となってメディアに相次いで取り上げていただき、売れ行きが加速しました」と語る藤沢氏がスマホを使い始めたのは11年10月。以来、iPhone好きの消費者に向けたモノづくりを考え、設計を始めたという。
その後、フェイスブックで知り合った人と情報交換を重ねながら、商品機能や使い勝手の改良を進めた。インターネット上だけでなく、リアルの場での意見も重視して開発に生かした。
例えば、展示会のブースに試作品を出品し、予定価格を9500円に設定したところ、来場者から「高い」「5000円以下なら買う」という声が上がった。その反応を得て価格を見直し、最初の商品は4800円で発売した。こうした一連の活動により、発売時には販路や顧客候補ができていたのも大きかったという。