販売するつもりのなかった商品、なぜヒット?町工場の型破りの開発&資金調達
●クラウドファンディングで資金調達
この開発資金の一部となったのが、クラウドファンディングだ。ネットを活用した資金調達手法に興味を抱いた藤沢氏の発案で、当初から相談に応じていたモノづくり支援企業のエンモノの賛同を得てプロモーションビデオも制作した。ビデオの冒頭でスーツ姿の藤沢氏がiPhoneを取り出しトリックカバーのデモンストレーションを行うとともに、社内における開発風景を紹介するなど、ビジネス視点も意識した内容になっている。
また、クラウドファンディングには「寄付型」と「投資型」があるが、寄付型は目標額の設定と寄付する人へのインセンティブ(対価)の設定が大切で、あまり高い目標額だと資金が集まりにくい。そこで藤沢氏は目標額を50万円に設定したが、ユニークな操作動画が人気を呼び、わずか2週間で到達。最終的には募集期間中に130万円を超える額が集まった。開発資金は約400万円だったので、3分の1を補えたことになる。5000円以上の寄付者には最終商品を送ったという。
●町工場の情報発信不足も補う
こうして紹介すると、二代目社長が好奇心だけで商品開発をしていったと思われるかもしれないが、横浜国立大学理工学部を卒業後、日本発条を経て家業のニットーに入社した藤沢氏には、町工場である自社の先行きへの危機感があった。
もともと同社は現会長で父の洋(あきら)氏が創業。堅実な仕事ぶりで評価を高め、大手企業の下請けとして製品を納入してきた。04年から08年にかけては、先方の要望に応じて近隣の町工場を相次いで買収して事業分野も拡大。熟練の技術と販路もグループ内の財産となり、取引先向けに開発・製造・販売を一貫してできる体制が整った。
3社目を買収後、土地を取得して本社と工場を一本化する設備投資を行った。だが買収した先の社員が旧グループ会社同士で結託して反発するなど、一体運営に苦労するようになったため、新たな企業理念の設定や各部署の社員リーダーへの権限委譲などを話し合うことで、徐々に一体感が芽生えていったという。
こうした過程で自社の課題を洗い出すうち藤沢氏は、きちんとした営業態勢と自社技術のアピール不足に気づき、その取り組みの1つとして自社独自商品の開発を始めたのだ。
「トリックカバー」のヒットは、本業にも相乗効果を生んだ。「そんな技術もあるのか」「次はどんな商品を考えているの?」と取引先の評判を呼び、共同開発の誘いも増えた。オリジナル第二弾では「くるみる」という360度の3D写真が撮影できる商品を開発した。オリジナル商品は、結果として会社の広告塔の役割も果たしてくれるようになったのだ。
東日本大震災の被災企業への支援策として話題となったクラウドファンディングだが、大規模投資ができない組織の資金調達方法として、自治体も熱い視線を注いでいる。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)