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理央周「マーケティングアイズ」

なぜミスドは素晴らしいのか?値引き競争の罠に陥らず、ヒット商品を生み出す「新結合」

文=理央周/マーケティングアイズ代表取締役、売れる仕組み研究所所長
なぜミスドは素晴らしいのか?値引き競争の罠に陥らず、ヒット商品を生み出す「新結合」の画像1ミスタードーナツの店舗(「Wikipedia」より/Kuha455405)

 以前、米ニューヨークでクロワッサン・ドーナツがはやっていることをテレビCMで知り、ミスタードーナツのそれをなぜか食べたくなってしまったことがある。

 筆者のこの行動は、ミスドの狙いにはまってしまう消費者と同じ感覚である。ミスドのファンでもなければ日頃通っているわけでもないのに、美味しそうな製品のイメージと好きなニューヨークのイメージがマッチして行動を起こす。テレビをはじめとする動画でなければ起こり得ない行動である。

 では、肝心のミスドのクロワッサン・ドーナツはどうかというと、なかなか美味しい。個人的な感想だが、5点満点でいえば4.5点くらいの高得点で、上に乗っているクロワッサン部分のカリカリした食感も、ドーナツ部分のしっとり感とぴったりマッチしている。

 クロワッサンとドーナツを合体させようとした人の発想が素晴らしい。既存製品同士を合体させ、新しい価値を創り出す、「新結合」という考え方になる。

 ミスドはこの製品またはコンセプトを、いち早く米国の流行を見た上で日本に輸入したと思われるが、大手の競合他社が手を付けていない中、柔軟に素早く商品化できたことがまずは素晴らしい。大企業は得てして新商品や新規事業の開発・立ち上げに時間がかかり、最悪の場合は競合に先を越されてしまう。良い発想をいち早く商品に変える「イノベーション」的なマインドを持ち、スピーディーに具体化することはなかなかできない。

 企業がそれを実現するためには、社内にはびこる「固定観念」と「過去の成功体験」を社員からぬぐい去らなければならないが、実はこれは戦略の方向転換をするよりも難しい。なぜなら、社員一人ひとりのマインドやDNAの問題だからだ。大企業になればいっそう困難になる。その点を、スピードをもってできたミスドは注目に値する。

足湯+居酒屋という「新結合」

 では、このような新製品・サービスの開発は、大企業にしかできないのであろうか。先日行った名古屋市にある沖縄・九州料理店「芋んちゅ」の一室には「足湯」があった。さらに、ご丁寧にタオルと温泉の素まで用意されており、しっかりとお湯を張ることもでき、足をつけることもできる。部屋もゆったりとしていて、料理も美味しく泡盛の種類も豊富。雰囲気の良いお店なので、不振にあえぐ飲食店が多い中で「満席」に近い状態だった。

 一見、足湯と居酒屋というのはミスマッチだが、これもクロワッサン・ドーナツ同様に既存のモノ同士を結合させる「新結合」である。

 居酒屋をはじめとする外食業界の競争は激しい。下手をするとすぐに価格競争になり、クーポンを乱発したりする。そうすると利益も落ちるし、ブランド価値も下がる。芋んちゅのような自由な発想ができると、新しい価値や話題をお客に提供できる。価格の安さ以外の魅力を感じて、顧客が「行く理由」が生まれる。競争する場所と軸が変わることで、値引き合戦から抜け出すことができるのだ。

 このような発想は「居酒屋だから」という固定観念があると生まれない。「新結合」という発想は、あらゆる業界に通用する、価格競争や利益率低下に陥らずに顧客を創出するカギといえる。
(文=理央周/マーケティングアイズ代表取締役、売れる仕組み研究所所長)

理央周/マーケティングアイズ代表取締役、売れる仕組み研究所所長

理央周/マーケティングアイズ代表取締役、売れる仕組み研究所所長

●理央 周(りおう めぐる、本名:児玉 洋典)

マーケティング・コンサルタント、企業研修講師。1962年生まれ。静岡大学人文学部卒。フィリップモリスなどを経て、インディアナ大学経営大学院にてMBAを取得。アマゾンジャパン株式会社、マスターカードなどで、マーケティング・マネージャーを歴任。2010年に起業。収益を好転させる中堅企業向けコンサルティングと、従業員をお客様目線に変える社員研修、経営講座を提供。2013年より関西学院大学経営戦略研究科教授として教鞭をとる。著書は『「なぜか売れる」の公式』(日本経済新聞出版社)、『仕事の速い人が絶対やらない時間の使い方』(日本実業出版社)など。商工会議所や経営者会での講演、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌への出演、寄稿も多数。


マーケティングアイズ株式会社

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