以前、米ニューヨークでクロワッサン・ドーナツがはやっていることをテレビCMで知り、ミスタードーナツのそれをなぜか食べたくなってしまったことがある。
筆者のこの行動は、ミスドの狙いにはまってしまう消費者と同じ感覚である。ミスドのファンでもなければ日頃通っているわけでもないのに、美味しそうな製品のイメージと好きなニューヨークのイメージがマッチして行動を起こす。テレビをはじめとする動画でなければ起こり得ない行動である。
では、肝心のミスドのクロワッサン・ドーナツはどうかというと、なかなか美味しい。個人的な感想だが、5点満点でいえば4.5点くらいの高得点で、上に乗っているクロワッサン部分のカリカリした食感も、ドーナツ部分のしっとり感とぴったりマッチしている。
クロワッサンとドーナツを合体させようとした人の発想が素晴らしい。既存製品同士を合体させ、新しい価値を創り出す、「新結合」という考え方になる。
ミスドはこの製品またはコンセプトを、いち早く米国の流行を見た上で日本に輸入したと思われるが、大手の競合他社が手を付けていない中、柔軟に素早く商品化できたことがまずは素晴らしい。大企業は得てして新商品や新規事業の開発・立ち上げに時間がかかり、最悪の場合は競合に先を越されてしまう。良い発想をいち早く商品に変える「イノベーション」的なマインドを持ち、スピーディーに具体化することはなかなかできない。
企業がそれを実現するためには、社内にはびこる「固定観念」と「過去の成功体験」を社員からぬぐい去らなければならないが、実はこれは戦略の方向転換をするよりも難しい。なぜなら、社員一人ひとりのマインドやDNAの問題だからだ。大企業になればいっそう困難になる。その点を、スピードをもってできたミスドは注目に値する。
足湯+居酒屋という「新結合」
では、このような新製品・サービスの開発は、大企業にしかできないのであろうか。先日行った名古屋市にある沖縄・九州料理店「芋んちゅ」の一室には「足湯」があった。さらに、ご丁寧にタオルと温泉の素まで用意されており、しっかりとお湯を張ることもでき、足をつけることもできる。部屋もゆったりとしていて、料理も美味しく泡盛の種類も豊富。雰囲気の良いお店なので、不振にあえぐ飲食店が多い中で「満席」に近い状態だった。
一見、足湯と居酒屋というのはミスマッチだが、これもクロワッサン・ドーナツ同様に既存のモノ同士を結合させる「新結合」である。
居酒屋をはじめとする外食業界の競争は激しい。下手をするとすぐに価格競争になり、クーポンを乱発したりする。そうすると利益も落ちるし、ブランド価値も下がる。芋んちゅのような自由な発想ができると、新しい価値や話題をお客に提供できる。価格の安さ以外の魅力を感じて、顧客が「行く理由」が生まれる。競争する場所と軸が変わることで、値引き合戦から抜け出すことができるのだ。
このような発想は「居酒屋だから」という固定観念があると生まれない。「新結合」という発想は、あらゆる業界に通用する、価格競争や利益率低下に陥らずに顧客を創出するカギといえる。
(文=理央周/マーケティングアイズ代表取締役、売れる仕組み研究所所長)