シチズンの中国法人、西鉄城精密(広州)有限公司が撤退に当たって難題を抱えている。シチズンは現地工場閉鎖の決定を発表したのだが、大きな反発を受けた。同工場従業員に閉鎖を発表したのが2月5日で、生産ラインを止める当日だったという。1000人を超える従業員たちは、雇用契約終了を受け入れる確認を2月8日限りで求められた。
中国では20人以上を解雇する場合、1カ月以上前に従業員へ通告しなければならない。2月10日付朝日新聞によれば、シチズン側は「今回は解雇ではなく、会社の清算なので適用されない」としているが、7日には抗議のデモが起こり、10日朝の時点で60名弱が同意書にサインしていないという。さらに悪いことに、現地で大きく報道されている。その後、退職金に2カ月分の賃金を上積みすることにより、全従業員からの解雇同意を取り付けたという。シチズン側は退職金の総額は明らかにしておらず、実際には相当の授業料を払って事態の収拾を図ったとみられる。
尖閣諸島問題などで反日感情は高まっており、12年9月には中国全土100以上の都市で反日デモが起き、一部では暴徒化したデモ隊が日系スーパーや日本企業の工場を襲った。シチズンの工場閉鎖争議が現地で報道されたということは、この工場も一触即発の状態だったことが想像される。
中国で種々の問題が起こると、日本企業は糾弾されやすい。シチズンのようなケースの場合、まず地元で裁判を起こされるリスクがある。あるいは行政により罰金を課せられる事態も想定しなければならず、その場合は2カ月の賃金上乗せどころではすまなくなり、懲罰的に高額な金額となるだろう。さらに工場が保有している機器などの資産も差し押さえられたり、没収されることだろう。工場内の資産は日本に返ってこず、技術情報など特許関係の知的財産まで収用されてしまう恐れもある。
折しも今月、中国は米半導体大手クアルコムが独占禁止法に違反したとして、約1150億円もの巨額罰金を科したことが明らかとなった。中国に進出する企業の間では「独禁法が恣意的に使われている」との批判も強く、中国が政治的あるいはビジネス戦略的に同国へ進出した外資系企業に対して独禁法を適用しているという見方が有力だ。
●往きは良い、帰りは怖い
中国への日本メーカー進出がブームとなったのは円高が急速に進んだ1990年代後半だった。筆者は香港企業の日本法人社長という立場で、中国事情に目が開いた立場にあった。当時、中国進出を検討していた日本メーカーに筆者は、「香港の華人系企業なら中国内でうまく立ち回れる。彼らと組んで進出しなさい。でなければ、撤退する時に何も持ち帰れませんよ」と助言していた。