こうした動きの背景に共通するのは、今後国内金融セクター全般の収益性が低下しつつあるという考えだろう。そのため、経営統合や提携によって、経営の効率性と規模の拡大を追求しようとしているのである。
●なぜ、いま経営統合なのか
今、地方銀行再編が進んでいるのは、景気が良くなっているからだ。過去の超円高局面などを振り返ると、先行き不安から経営統合などのリスクは取りづらかったといえる。
足元の国内景気は徐々に昨年4月の消費増税後の落ち込みから脱却し、上向き基調に回帰しつつある。企業収益を見ても、円安の恩恵を受けて大手自動車メーカー5社が過去最高益を出すなど、業況は概ね良好だ。円安を背景に、製造拠点を国内に戻す動きも進んでいる。こうした動きは国内での設備投資を増加させ、資金需要を高めることにつながるだろう。
加えて、長引く低金利環境ではトレーディング収益に期待することも難しい。少子化が進む中、中長期的には預金も減少する可能性がある。そこで重要になるのが規模の経済効果の追求だ。そのため、景気が上向き資金需要が見えたタイミングで統合を通し、より効率的に金融サービスを提供する経営基盤を構築しようという動機が働いているのだろう。
それは資本の効率化にとっても重要だ。特定地域での預金争奪戦などが落ち着けば、資金調達コストの低下が可能になるだろう。成長性の高い分野へ投融資を実行する際の意思決定も効率化できるかもしれない。すでに、金融庁は地銀に対して、グループに属する銀行同士が余ったお金を自由に融通し合えるように規制を緩和した。これは経営統合をサポートする強いファクターになる可能性がある。
●地銀以外でも再編は進みやすい
地銀以外のセクターでも、業務提携など新しい金融機関同士の関係強化は進む可能性がある。りそなHDに対する生保の出資はその一例だ。14年4~9月期決算期、株式会社化を進めて積極的なM&A戦略をとった第一生命が、日本生命の保険料収入を初めて上回った。個人マネーをめぐる保険会社の競争は、熾烈化する可能性がある。海外進出、他業種との業務提携は端的な例だ。銀行業界に比べると保険会社の再編はいまだ進んでいないと考えられるだけに、今後進む可能性もある。
国内の預貯金は、高齢者への資産偏在と老後生活のための貯蓄取り崩しにより、パイは小さくなっていくだろう。メガバンクでさえアジア新興国を中心に海外事業の展開に注力していることを考えると、経営体力を高めるための戦略整備は不可欠だ。その点で、地銀、生保など、金融機関の再編、海外展開は、さらに加速する可能性がある。
すべての金融機関が、再編の波に乗ることができるわけではない。いまだに組織の統合がままならないケースや、単独で国内での事業強化に励む例も見られる。こうした戦略が中長期的に合理的な選択なのか、冷静な評価が必要だろう。一般事業会社もこうした金融再編の可能性に備え、財務内容を強化するだけでなく、必要な時に必要な成長資金を調達できる競争力が求められていることを再認識すべきだろう。
(文=真壁昭夫/信州大学経済学部教授)