大塚家具の確執劇は、大変贅沢な悩みである 企業の3分の2が後継者不在に悩み
百福氏は晩年まで経営意欲旺盛だったようで、亡くなる前年の95歳の時ですら、東南アジアに工場を建てようと計画していた宏基氏に「広げすぎるな。うまくいかない」と述べ、最後は「俺が辞めるか、お前が辞めるか、どちらかだ」と怒り、宏基氏は計画を断念したという。さすが、創業経営者の迫力は違う。
●国内企業の3分の2が後継者問題に悩み
比較的創業者とうまく付き合ってきた宏基氏は、創業者とうまく付き合うための4つの教訓をこう述べている。
教訓その1 会社の無形資産の中で最大価値は「創業者精神」であると思え
教訓その2 2代目の功績は創業者の偉業の中に含まれると思え
教訓その3 2代目は「守成の経営」に徹すべし
教訓その4 創業者の話に異論を挟むな。まず「ごもっとも」と言え
その3については、「いやいや、どんどんチャレンジしてきたじゃないですか」と突っ込みたくなるが、とにかく創業者を立てながら経営を進めてきたことがうかがえる。この「4つの教訓」は、宏基氏の著書『カップヌードルをぶっつぶせ! 創業者を激怒させた二代目社長のマーケティング流儀』(中央公論新社)で述べられているのだが、むしろ本書の帯にある作家・堺屋太一氏の言葉「二代目には創業者の偉さがわかる。創業者には二代目の苦労はわからない。二代目こそ、強靭で謙虚で大胆でなければならない」が、宏基氏の本音だろう。
もっとも、帝国データバンクの調べによれば、国内企業の3分の2に当たる65.4%が後継者不在で悩んでいるという。事業を承継させる適任者が存在しないわけだ。そんな状況の中、創業者を脅かすような2代目がいるということは、本来はとても頼もしい、ありがたい状況である。
大塚家具の勝久氏は、自分の方針と異なる久美子氏に頭を悩ませているかもしれないが、それは、後継者不在に悩む多くの企業と比較すると、大変贅沢な悩みなのである。
(文=牧田幸裕/信州大学学術研究院(社会科学系)准教授)