この仰天人事には、トヨタグループのトップ、豊田章男トヨタ自動車社長の強い意向がある。デンソーはトヨタ系とはいえ、持分法適用会社であり子会社ではない。独立した企業として、歴代社長は生え抜きが務めてきた。デンソー社内では鹿村秋男副社長の昇格が既定路線だったが、トヨタが若返りを強く求めたため、急遽有馬氏に白羽の矢が立った。
しかし、トヨタが若返りを求めたというのは口実で、「豊田社長が、自分より2歳年上の鹿村副社長がデンソー社長に就任することを嫌ったため」(トヨタグループ関係者)といわれている。系列サプライヤーのトップ世代交代を進め、章男イズムを端々にまで浸透させるのが狙いだ。
一方、4月1日付でグループの有力部品メーカー、アイシン精機の水島寿之副社長をトヨタの専務役員、デンソーの奥地弘章常務役員を同じくトヨタの常務役員に迎えた。グループ企業の役員をトヨタの重要なポストに就けるという「天上がり人事」を断行。トヨタは役員人事で硬軟両用、うまく使い分けをしている。
●富士通の田中達也次期社長(58)
富士通の田中達也氏も14人抜きだ。執行役員常務から取締役を飛び越して、社長に昇格する。6月22日の株主総会、取締役会を経て正式に就任する。それまで副社長に昇格して、次期社長として業務を引き継いでいく。田中氏は03年から09年まで、自ら志願して中国・上海に駐在。14年4月からシンガポールに赴き、グローバル5地域体制の一角であるアジアリージョン長を務めるなど、国際経験がある。
●ホンダの八郷隆弘次期社長(55)
ホンダの八郷隆弘氏は9人抜き。常務執行役員から、いきなり取締役9人を飛び越してトップに就く。これまでホンダの社長は、子会社の本田技術研究所の社長を経ることが慣例となっていたが、八郷氏は経験していない。「技術のホンダ」が長年続けてきた不文律が8代目社長で破られることになった。6月に開催される株主総会と取締役会で、正式に社長に就任する。
伊東孝紳社長は一連のリコール問題へけじめをつける、事実上の引責辞任とみられている。主力の小型HV「フィット」は1年余りで5回ものリコール(回収・無償修理)を届け出た。タカタ製エアバッグの欠陥問題では、調査目的を含め、世界で業界最多の1400万台超のリコールを行った。
伊東氏は、世界の6地域で、開発・購買・生産の現地化に力を入れた。伊東改革を推進するために海外に送り込まれたのが八郷氏だ。12年に欧州を統括する英国子会社の副社長、13年からは中国の生産統括責任者として現地法人2社の副社長を務めてきた。伊東社長が敷いたグローバル路線を継承することになる。