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小黒一正教授の「半歩先を読む経済教室」

黙殺される河野太郎議員が明らかにした「不都合な真実」 23年度以降は財政悪化との衝撃試算

文=小黒一正/法政大学経済学部教授
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 現在のところ、マスコミの多くは黙殺中であるが、4月1日、ニューズウィーク日本版に『債務GDP比23年度以降に反転上昇も、自民が内閣府試算を検証』という記事が掲載された。

「内閣府が今年2月にまとめた経済財政の中長期試算について、自民党の財政再建に関する特命委員会が2日の会合で、独自の検証、分析結果を提示することが1日、わかった。経済成長とともに国内総生産(GDP)に対する国・地方の債務残高の比率は低下するが、2023年度には底を打ち、反転上昇するとの試算を示す。試算は、自民党の河野太郎・行政改革推進本部長が内閣府の中長期試算を独自に検証し、導き出した。内閣府の中長期試算では、高成長が続けば債務残高対GDP比が15年度の195.1%から20年度に186.0%となり、23年度までは右肩下がりの改善を続ける姿となっている。これに対し、河野氏の検証では、日銀が量的・質的金融緩和政策からの出口戦略を採り、すでに発行した利付国債も含む加重平均金利の上昇は避けられないと判断。23年度以降は悪化に転じると結論付ける。複数の政府、与党筋が明らかにした」(同記事より)

 この記事のとおり、河野氏の検証結果はまったく正しい。政府・与党は、20年度の国・地方の基礎的財政収支(PB)黒字化を目標に、新たな財政再建計画を夏頃までに策定する予定だが、内閣府の中長期試算によると、17年4月の消費増税(税率8%→10%)や高成長ケースを前提にしても、20年度のPB(対GDP)は1.6%の赤字となることが明らかになっている。

 これは成長による税収の自然増のみではPBの黒字化は不可能であり、社会保障改革を含め歳出削減や追加の増税が不可避であることを示唆する。しかし、それは政治的に極めて厳しい現実であるため、その一環として、財政再建目標を債務残高対GDP比に変更しようとする動きが出てきていた。

 実際、昨年12月22日の経済財政諮問会議において、安倍晋三首相は、「国内総生産(GDP)を大きくすることで累積債務の比率を小さくすることになる。もう少し複合的にみていくことも必要かな、と思う」旨の発言をしている。このような動きがある中、河野氏の検証結果は、その危うさを浮き彫りにする「不都合な真実」である。

●財政収支(対GDP)、23年度頃に6%超の赤字

 なお、このような「不都合な真実」は、経済学の「ドーマーの命題」を利用しても簡単に確認できる。ドーマーの命題とは、「名目GDP成長率が一定の経済で財政赤字を出し続けても、財政赤字(対GDP)を一定に保てば、債務残高(対GDP)は一定値に収束する」というものである。

 証明の詳細は省くが、財政赤字(対GDP)をq、名目GDP成長率をnとすると、「債務残高(対GDP)の収束値=q/n」(※1)という関係式が成り立つ。例えば、財政赤字(対GDP)が3%(q=0.03)で、名目GDP成長率が5%(n=0.05)のとき、債務残高(対GDP)の収束値は60%(q/n=0.6)となる。

小黒一正/法政大学教授

小黒一正/法政大学教授

法政大学経済学部教授。1974年生まれ。


京都大学理学部卒業、一橋大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学博士)。


1997年 大蔵省(現財務省)入省後、大臣官房文書課法令審査官補、関税局監視課総括補佐、財務省財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授などを経て、2015年4月から現職。財務省財務総合政策研究所上席客員研究員、経済産業研究所コンサルティングフェロー。会計検査院特別調査職。日本財政学会理事、鹿島平和研究所理事、新時代戦略研究所理事、キャノングローバル戦略研究所主任研究員。専門は公共経済学。


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