アジア自動車産業 競争的分業体制への歴史的転換(後編) 超中心国3国が牽引する各国間の序列が明確化
現実に目を向けるならば、最も進んでいるタイといえども、サプライヤーのレベルはこころもとない状態である。規模においても質においても、日本の60年代前半のレベルとの評価もある。さらに超中心国であるインドネシアは、このタイと比較してもサプライヤーが量的にも乏しい。自動車メーカー数はタイ、インドネシア両国に大きな差はない。しかし、1次サプライヤーではタイの700社に対してインドネシアは170社にすぎず、さらに2次、3次サプライヤーに至っては、それぞれ1700社に対して350社とインドネシアで桁違いに少ない。したがって、今後の課題はこのサプライヤー基盤の強化を急ぐ必要があり、特にインドネシアでそれが喫緊の課題であるといえよう。
競争的分業時代には、まずは完成車メーカーを中心にした超中心国間の競争が激化し、生産体制の量的水準が一気に上がっていくものと想像される。しかし、それは同時にサプライヤー基盤の強化の競争でもあるが、この部分については十分な見通しを持つことはできない。現地同士の競争による質的量的向上が基本となるだろうが、日本企業、特にグローバル化では後れを取っている2次、3次サプライヤーの関与が重要になるのではないか。日本国内の仕事が減少する中で、新たな事業機会がASEAN地域には広がりつつあるといえるだろう。
おわりに
本稿は、14年11月に京都と東京で開催された京都大学東アジア経済研究センター主催「アジア自動車シンポジウム」での講演を元に作成したものである。講演の機会を与えていただいた塩地洋京都大学教授に心から感謝したい。また、競争的分業体制の着想は、アジアン・ホンダの前原氏の議論を基礎に、鹿児島県立短期大学非常勤講師である山本肇氏の議論から得たものであることを記して、ここにお二人への感謝の意を表するものである。
(文=井上隆一郎/東京都市大学都市生活学部教授)
【参考文献】
マークラインズ「公開自動車統計資料」各年版
GAIKINDO「自動車統計」各年版
JETRO「製造業月額賃金比較」