経団連次期会長人事、混迷の舞台裏…交錯する米倉会長の思惑と東芝社内人事
2014年5月の任期満了まで残り1年となった米倉弘昌会長(76)が、6月3日の報道各社とのインタビューで、後任の経団連会長の資格・要件についてこう語った。“ポスト米倉”は、経団連の副会長など要職を現在務めている製造業の現役の社長あるいは会長の中から選ぶということだ。
経済・産業界には「筆頭副会長になった川村隆・日立製作所会長(73)を事実上、指名したもの」(元経団連副会長)との見方が浮上している。これは、いわゆる財界主流派の読みだ。川村氏は12月19日には満74歳になる。年齢がネックになる。
本当に、川村氏で決まりなのか。米倉会長の思いは別として、「次の経団連会長の選考は難航する」(別の経団連元副会長。米倉会長とは距離を置いている財界首脳)との指摘がある。こちらが多数派かもしれない。
日本経済新聞(6月4日付朝刊)は「主な製造業出身の副会長」として顔写真つきで川村、大宮英明・三菱重工業会長(66)、友野宏・新日鐵住金社長(67)、内山田竹志・トヨタ自動車会長(6月末に副会長から会長に昇格、66)を挙げている。
4氏の中には「絶対に経団連会長にはならない」(トヨタグループの長老)と言われる人物が含まれている。トヨタの内山田会長だ。トヨタが経団連会長を出す機が熟すのは豊田章男社長(57)が会長になった後だといわれている。
会長に昇格した内山田会長が、我が世の春を謳歌しているのは間違いない。章男社長は技術がわからないので、技術面に関しては全て内山田会長に任せている。それで、章男社長の側近に躍り出て、今回、会長にしてもらった。もちろん、経団連副会長に送り出すために箔をつけたわけだ。
だが、内山田会長は財界活動なんて、とても無理。トヨタの技術のことはわかるが、経営はもちろんわからず、視野も狭いという。会長に就任が決まってもトヨタの技術の現場を仕切る気持はまったく変わっていない。彼はディーゼル車が大嫌いで、部下は彼の前で「ディ」の字も出せないそうだ。
トヨタの社内外から聞こえてくる評価を総合すれば、内山田氏は経団連会長の適格性に欠けるということになる。
となると、友野、大宮の両氏が有力候補かというと、友野氏は今年6月、経団連の副会長になったばかりで、1年で経団連会長になる可能性は少ない。
もう1つの経済団体、日本商工会議所の次期会頭に新日鐵住金の三村明夫相談役(72)が決まった。10月末に任期が切れる岡村正会頭(74、東芝相談役)の後任として、11月の会員総会で正式に決定する。任期は3年で2期6年務めるのが慣例。新日鐵住金から日商会頭が就任するのは、69年9月~84年5月の永野重雄・新日本製鐵会長(富士製鐵OB)以来となる。財界には、同一企業のトップ経験者が2つの財界のリーダーにはならない、との不文律がある。だから友野氏の経団連会長の就任はない。
大宮会長は三菱グループの代表として、候補に残るが、旧三菱財閥の御三家の一角を占める三菱重工から経団連会長が出る確率はかなり低いとみられている。
米倉・現会長の思惑とは別に、経団連は政権との距離を踏まえ次期会長の選定を進める。80年代以降、経団連会長を出してきた新日本製鐵(稲山嘉寛、斎藤英四郎、今井敬の3氏)、トヨタ自動車(豊田章一郎、奥田碩の2氏)、東京電力(平岩外四氏)は“経団連御三家”と呼ばれた。だが、東電は福島第1原子力発電所事故で圏外に去り、新日鐵住金は日商会頭を務めることになった。そして、今のトヨタには経営者の世代交代で(経団連会長の)適任者がいない。
こうして情況下、経団連会長の椅子に意欲を燃やしているのが、元祖・経団連企業を自認する東芝である。東芝は1970年代まで、石坂泰三氏(1956年2月~68年5月)と土光敏夫氏(74年5月~80年5月)という2人の大物を経団連会長に送り出してきた名門だ。石坂氏は、文字通り“財界総理”と呼ばれた。
80年代以降、経団連会長に縁がなかった東芝が、久々に財界総理の座が近づいたのである。長いこと“ポスト米倉”の最短距離にあるといわれてきたのが、東芝会長の西田厚聰氏(69)だ。しかし、西田氏が就任するには、越えなければならない大きなハードルがある。
6月4日の定時総会で、西田氏は経団連副会長の任期満了(2期4年)を迎えた。経団連の現役の副会長でも審議員会議長・副議長でもなくなった。西田氏は副会長を退任後、経団連会長の待機ポストとされる審議員会議長や副議長ポストにも就けなかった。米倉会長が西田氏が経団連に残ることに「ノー」と言った、と財界では広く受け止められている。
これで、西田氏が悲願の経団連会長の椅子に座る確率は極めて低くなったが、驚異の粘り腰をみせて踏みとどまった。東芝は田中久雄副社長(62)が社長に昇格、佐々木則夫社長(63)が新設する副会長のポストに就く。西田会長は留任した。東芝会長を続投することで西田氏は経団連の次期会長候補として、わずかに残ったのである。
しかし、米倉会長は経団連の要職にあることを“ポスト米倉”の条件に挙げた。ここが一番、悩ましいところだ。
経団連会長を輩出してきた新日鐵住金、トヨタ、東電、それに東芝の4社が経団連の保守本流である。ところが、キヤノンの御手洗冨士夫氏(06年5月~10年5月)、住友化学の米倉弘昌氏(10年5月~14年5月)と、2代続けて本流以外から会長が出た。これまでも商社、銀行、生損保や鉄道から経団連会長は出ていない。三菱商事は小島順彦会長(71)を押し立てて経団連会長獲りに意欲を見せているが、「商社には自分たちの経済団体、日本貿易会があるではないか」(現役の経団連の副会長)と距離を置かれており、総合商社は米倉氏の言うところの製造業ではない。これが小島氏を擁立するグループの最大のネックになっている。
経済財政諮問会議の民間議員に就任して、その存在感を急激に高めている東芝の佐々木則夫社長(63、6月末に東芝の副会長になる)が、経団連の副会長在任1年で経団連会長の椅子に駆け上るという声もあったが、佐々木氏は西田氏との内部対立で来年、東芝の副会長を追われる懸念まで取り沙汰され始めた。
70歳代が当たり前の財界のリーダーの中で、佐々木氏は63歳。若さが最大のセールスポイントになることは間違いないのだが、東芝の社内の基盤が崩れてはいたしかたない。
権力は自分の手で(血を流してでも)取りに行く、という先人の教えがある。米倉会長が何と言おうと西田氏は、まだ次期経団連会長の候補の一人なのである。
(文=編集部)