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中野晴啓「“積立王子”のいそがないで歩く投資のお話」

米中貿易戦争で米中が同時景気後退局面入り、日本経済に打撃…投資には絶好の機会

文=中野晴啓/セゾン投信社長
米中貿易戦争で米中が同時景気後退局面入り、日本経済に打撃…投資には絶好の機会の画像1「Gettyimages」より

 9月までの世界のマーケットは米株式市場で史上最高値を更新し、日本株でも日経平均が27年振りの高値を超えるなど「適温相場」の再来とまで楽観が支配していました。しかし、10月に入って世界同時株安が起こり、すっかりムードが一変しています。それでも国内市場関係者からは、今回の下落局面をテクニカルな調整ととらえて年末に向けて「買いの好機」と強気の発言がまだ多く聞かれます。

 足元の相場がどう動くのかは神のみぞ知るですが、長きにわたり上昇トレンドを続けてくれば、やがてまとまった下落調整が不可避です。今回の急激な市場変化には、潮目が変わったと感じられるいくつもの実体的事象を重ねて見ておくべきでしょう。

米中貿易戦争で米中が同時景気後退局面入り、日本経済に打撃…投資には絶好の機会の画像2『はじめての人が投資信託で成功するたった1つの方法』(中野晴啓/アスコム)

 トランプ米大統領が仕掛けた米中貿易摩擦は、これまで米中間選挙を睨んでの政治的駆け引きであって、あくまで時限的材料であろうとマーケットは深刻には受け止めていませんでした。しかし、中国の対米輸出全体に懲罰関税が及ぶに至り、中間選挙が過ぎようとも収束の落とし所が見えなくなった現在では、これは米国によるグローバルな覇権を守るための貿易戦争であると見方を変えぬわけにはいきません。この膠着は対米依存の高い中国経済を着実に締め上げていくことになりますが、その実体経済に対する影響がいよいよ顕在化し始めたことが今回のマーケット変調要因のひとつでしょう。

 トランプ減税の効果で足元の米企業業績は絶好調です。今期は総じて2割を超える利益成長が見込まれているので、最高値を付け上昇を続けた米株式市場の水準は正当化されてきましたが、グローバル経済は相互依存が前提で、中国を痛めつければその反動がやがてブーメランのごとく自国経済にも返ってきます。中国経済は明らかに関税効果から減速が顕在化し始めていて、米国の対中輸出企業の売上減少への懸念が高まると共に、中国からの輸入がビジネスモデルに組み込まれている多くの米国企業では、コストアップによる利益圧迫が避けられなくなってきたのです。これらの反作用が来期以降の米企業業績期待を萎ませて、米国の株式市場が価格水準の修正に向けた下落を始めたのではないでしょうか。

マネーフローの大転換

 実は株式市場の価格とは、現在を反映しているわけではなく、先行きの状況を先取りして正当化されるものなのです。つまり、来年以降の経済活動を今のマーケットが織り込んで動いているわけで、米企業成長率の大幅鈍化が想定されるなかで、加えて安定した好景気の米国でさらに強引な加速を求めて実施されたトランプ減税の効果も、時を同じくして来年以降ピークアウトに向かうとの予測も重なって、早晩米国経済全体が景気後退局面に入る可能性を現在のマーケット動向が示唆していると筆者は感じています。

 無論、米中双方の景気減速は、どちらの経済にも大きく貿易依存する日本経済にも直撃するはずです。ゆえに日本株の下落も、それを織り込み始めたと考えるべきでしょう。さらに欧州では、英のEU離脱交渉がまとまらぬまま離脱を余儀なくされる可能性(ハードブレグジット)が高まっており、イタリアでは政治的混迷からEUが求める財政規律を守れないとなれば、ユーロ危機再燃の恐れもあるなど、世界的に経済活動を妨げる課題は複合的に山積しているのです。

 加えてリーマンショック以降続いてきた先進国の金融緩和局面が、いよいよ来年以降はっきりと終わりを迎えてマネーフローが大転換するとなると、新興諸国からの資金流出懸念がひときわクローズアップされることにもなりかねません。

長期資産形成の基本的道理

 以上、あえて先行きの悲観ばかりを書き連ねましたが、グローバリゼーション構造の世界経済には安定機能が備わっています。対中ビジネスの退潮は必ずや他の地域で代替されることになるはずで、東南アジアや中南米諸国には成長機会の台頭ととらえられるでしょう。従って、世界経済全体の成長軌道が大きく損なわれるわけではなく、長期的には安定成長軌道が堅持されるであろうことを肝に銘じて、長期資産形成を続けていくことが何より大切な局面なのです。マーケットが下落する悲観時期は、長期投資家が将来の果実をさらに大きく育てることができる絶好の機会です。

 ところが最近投資を始めた人たちのなかに、上昇相場が続く期待のみを前提としているがために、下落相場であっさり挫けて投資をやめてしまう人たちが続出してしまうのではないかと筆者は心配しています。なにしろ今年始まったばかりの「つみたてNISA」を慌ててもう解約してしまったという人もいるくらいで、相場の動きにいちいち翻弄されていては、将来の財産づくりは到底実現できません。

 上がった相場は必ず下がるし、下がった後にはまた上がる。これを繰り返しながら気が付けば世界経済の長期的成長がちゃんとお金を育ててくれている。この原理原則こそが長期資産形成の基本的道理であることをわきまえて、相場動向にかかわらず投資を続けることが何より大切な行動なのです。
(文=中野晴啓/セゾン投信社長)

中野晴啓/セゾン投信社長

中野晴啓/セゾン投信社長

1987年、現在の株式会社クレディセゾン入社。セゾングループの関連会社にて債券ポートフォリオの運用業務に従事した後、投資顧問事業を立ち上げ運用責任者としてグループ資金の運用や海外契約資産等の運用アドバイスを手がける。その後、2006年セゾン投信株式会社を設立。現在2本の長期投資型ファンドを運用、販売している。「セゾン資産形成の達人ファンド」は数々のファンドアワードで最優秀ファンド賞を連続受賞。顧客数13万8千人、預かり資産額は2,300億円を超える。一般社団法人 投資信託協会理事 公益財団法人 セゾン文化財団理事。著書に『お金のウソ』(ダイヤモンド社)、『はじめての人が投資信託で成功するたった1つの方法』(アスコム)などがある。

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