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藤和彦「日本と世界の先を読む」

絶好調の米国経済に死角あり…高油価でもシェール企業破綻、ジャンク債暴落へ警戒高まる

文=藤和彦/経済産業研究所上席研究員
絶好調の米国経済に死角あり…高油価でもシェール企業破綻、ジャンク債暴落へ警戒高まるの画像1大相撲 夏場所 千秋楽 トランプ米大統領が観戦(写真:日刊スポーツ/アフロ)

 トランプ政権が繰り出す「破天荒」な通商政策(中国との関税合戦)と外交政策(イランへの軍事・経済両面からの締め付け)にもかかわらず、米国経済は絶好調である。

 特筆すべきなのは失業率の歴史的な低さである。今年4月の失業率は3.6%と49年ぶりの低さとなり、米国経済は実質的に完全雇用状態になっている。人手不足による賃金上昇で消費は堅調さを増し、さらに人手不足を招くという好循環が生じている。

 トランプ大統領の支持率は、米世論調査会社ギャラップが4月中旬に実施した調査で46%と過去最高を記録した。「我が世の春」を謳歌するトランプ大統領だが、懸念材料もある。

 米国では低金利を背景に企業の債務残高が15兆ドル超と過去最大となっているからである。米FRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長は5月20日のフロリダ州での講演で「企業の債務は歴史的な高水準に達している。経済が減速すると高水準の債務が借り手を圧迫しうる」と述べたが、FRBのトップが金融面のリスクについて事前に警鐘を鳴らすのは異例のことである。

 なかでも格付けが低く多額の債務を抱える企業への融資(レバレッジド・ローン)規模は1兆ドルを超えている。リスク分散の観点からレバレッジド・ローンを束ねて証券化したCLO(ローン担保証券)が広く売買されているが、リーマンショックに火を付けたのは、低所得者への住宅ローン(サブプライムローン、規模は1兆ドル超だった)を束ねた証券化商品(CDO)だったことを思い起こすと背筋が寒くなる。

ジャンク債に支えられるシェール革命

 格付けが低い多額の債務を抱える企業はレバレッジド・ローンとともにジャンク債を発行して資金調達するのが常態化している。その代表的な例はシェール企業である。米国のシェール革命はジャンク債市場の急拡大によって支えられてきたといっても過言ではないが、このことは原油価格が下落するとジャンク債市場は苦境に陥ることを意味する。シェール企業が経営破綻するリスクが高まるとの懸念から、資金の流出が生じてしまうからである。

 昨年後半にWTI原油価格が1バレル=76ドルから42ドルに急落すると、ジャンク債、CLOともに利回りが急上昇し、好調だった米国の株式市場も大荒れとなった。相場研究家の市岡繁男氏は「米国10年物国債とジャンク債の利回りが拡大したことが株価急落の原因である」と指摘しているが、1929年の大恐慌、2008年のリーマンショックの際にも信用スプレッドが拡大していた。

 今年に入りOPECなどの新たな協調減産のおかげで原油価格が回復する(1バレル=60ドル前後)と、ジャンク債、CLO市場ともに落ち着きを取り戻している。シェール企業の採算ラインが原油価格1バレル=50ドルとされていることから、市岡氏は「原油価格が1バレル=50ドルを下回れば米国株式市場に赤ランプが点る」と警鐘を鳴らしている。

 だが原油価格が採算ラインの50ドルを大きく上回っているにもかかわらず、このところシェール企業の倒産が相次いでいる(5月20日付OILPRICE)。5月に入ると80億ドル規模の債務を抱えたシェール企業が連邦破産法第11条(日本の民事再生法に相当)を申請する事例が生じている。

 原油価格が1バレル=30ドル割れした2015年から2016年にかけて、100社以上のシェール企業が倒産を余儀なくされた。その後、原油価格が上昇傾向に戻ると倒産の「波」は収まったが、ここに来て「再び倒産ラッシュが起こるのではないか」との懸念が生じている。この企業を対象にしたクレジット・デフォルト・スワップ(CDS、中長期的な見通しは厳しいが短期的に破綻を回避すれば利益が得られるデリバテイブ商品)を購入していたゴールドマンサックスは、突然の破産申請で損失を被るとされている(5月24日付ブルームバーグ)。CDSといえば、リーマンブラザーズを破綻に追い込んだ元凶であり、世界的な投資家ウオーレン・バフェット氏から「金融大量破壊兵器」と呼ばれた代物である。

 昨年後半からの金融当局の引き締め効果がじわりじわりと現れ始め、シェール部門への資金流入が減少していることから、高油価にもかかわらず資金繰りに窮するシェール企業が増加しているからである。この傾向が鮮明になれば、ジャンク債、CLO市場が再び動揺し、株価暴落の引き金になりかねない。

「大統領支持率はダウが決める」

 今や世界最大の原油生産国となった米国。サウジアラビアと同様、石油産業の動向が自国の経済(株価)を左右する構造となったといっても過言ではない。トランプ大統領は自らの再選のためには「高株価の維持が不可欠だ」と考えている。

 産経新聞の田村秀男氏によれば、1985年12月から2018年9月までの期間の米国の株価とGDPの相関係数は0.96と極めて高い。家計資産に占める株式や投資信託の比率が高いことから、株価が下がれば有権者の不評を買い、大統領の支持基盤が揺らいでしまう。「大統領支持率はダウが決める」と言われるゆえんである。

 トランプ大統領は株価対策のために「米FRBに1%利下げせよ」と要求しているが、企業債務の膨張に警戒し始めたFRBはこの要求に応じるかどうかは定かではない。
(文=藤和彦/経済産業研究所上席研究員)

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職
独立行政法人 経済産業研究所

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