どんな仕事、業界、業種であれ、継続して利益を出し続けるのは大変なこと。利益が出ない、あるいは赤字続き、という企業は特にこのご時世数知れずあるはずだ。
そんな中でも苦しむ会社が多いのが建設業界である。この業界専門のコンサルタントとして長く活動してきた中西宏一氏は、著書『赤字続きの会社がみるみる蘇る 建設業経営「利益最大化」の法則』(パノラボ刊)で、建設業界の企業特有の体質と見込みの甘さを原因として挙げている。
建設業界を蝕む「売上への固執」
中西氏によると、業界的に税引き前利益率は最低でも2%は欲しいところだが、それをクリアしている会社は全体の5社に1社程度だとしている。残りは赤字か、どうにか黒字を出している状態。あえて赤字にしている会社もあれば、無理やり黒字にしている会社もあるという。
なぜ建設業界の企業は利益が出にくいのか。もちろん外的要因はあっても、それはどの業界も同じ。建設業界の問題として中西氏は「過度な売上高への固執」を挙げる。
建設業の売上は、一般的にその年度に行われた工事の受注金額の合計である。通常であれば、ある工事の受注を目指す時、そこからどの程度の利益が得られるかを計算したうえで受注に動く。ただ、建設業界はそうでないこともあるという。
年間の売上高が10億円の会社であれば、その大型現場の受注金額が5億円の場合、年間の売上高の半分を確保できることになる。
「この工事は何としても受注しなければならない。利益? 工期は1年もあるから何とかなるだろう」と簡単に言えば、ほぼほぼそんな思考ではないだろうか。(P53より)
建設工事や土木工事などは施工業者の名前を地域の人が目にしやすい。そこで経営者の虚栄心と名誉欲が刺激される。こんな理由で、建設会社の経営者は赤字か超薄利にしかならない大型案件の受注に走るのである。これでは売上ができても利益が出ないのは当然だ。
会社として現場を優先しているわけでもなく、工期や品質について考慮するわけでもない。売上だけを見て受注を決めたら、現場にも経営にも不安要素や無理が生じる。経営者はそれにふたをして、見て見ぬふりを決め込む。これが、建設業界が「どんぶり勘定」と評される理由になっている。
こうした経営を何年も続ければ、資金繰りが悪化し、借り入れが必要になる。銀行を納得させるために形だけの経営計画を立てるが、その場しのぎのものなのですぐ頓挫する。そして当座の売上をたてるために、利益の出ない案件を受注する。建設業界で横行するマイナスのスパイラルである。
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「利益が出ないのは経営者のやり方が悪い」
「同族経営でうまくいっている会社は見たことがない」
「利益を出せない企業に価値などない」
本書には建設業界の企業の経営層に向けた厳しい言葉が並ぶ。
利益が出ないのは、利益を出すために何をすべきかを考えず、そもそも利益を追求しようともしていない経営者に問題がある。
一方で、中西氏は「建設業界は利益改善がしやすい」とも説く。本書では、建設業の企業が陥る負のスパイラルを抜け出し、利益を出していくための手法が解説されており、利益確保に苦しむこの業界の経営者にとって光明となる一冊だ。(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。