底の見えない株価下落に投資家は「パニック」に陥った。5日の東京株式市場は売りが売りを呼ぶ展開となり、日経平均株価の下げ幅は4451円28銭と、37年前の米国株暴落「ブラックマンデー」翌日に記録した3836円48銭を上回った。終値は昨年10月末以来の安値圏に沈み、年明け以降の上昇分をすべて吐き出した。新NISA(少額投資非課税制度)スタートをきっかけに株式投資を始めた新規参入組から経験豊富なベテランまで、幅広い層の投資家が痛手を被った。
◇引き金は日銀・米景気
「何がどうなってこんなに下げているのか、さっぱり分からない」。資産運用歴が20年を超える50代の男性公務員は、初めて遭遇した株価暴落を嘆いた。既に大きな含み損を抱えているといい、「売って損切りするしかない」とこぼす。市場関係者は「経験の浅い個人投資家の中には、手じまいする人もいるようだ」(中堅証券)と話した。
暴落の引き金は「日銀ショック」と米国の景気後退懸念だった。日銀は先週、追加利上げに踏み切るとともに、植田和男総裁が年内の再利上げを排除しない考えを表明。日米の金利差縮小が意識されて円相場が上昇に転じ、これまでは円安で日本株を割安に購入できた海外投資家が売りに回った。
追い打ちをかけたのが日本時間2日夜に発表された米国の雇用統計。昨秋以降の世界的な株高は、インフレに見舞われていた米国経済のソフトランディング(軟着陸)が前提だったが、雇用環境の悪化が浮き彫りになり、シナリオが崩れ始めた。米連邦準備制度理事会(FRB)が9月に0.5%の大幅利下げを決めるとの観測まで浮上し、円高・日本株安が加速。先月末の日銀金融政策決定会合翌日からわずか3営業日で日経平均は7600円超、約2割下落した。
◇「売られ過ぎ」もすべなし
株価下落はどこまで続くのか。鈴木俊一財務相は5日夕、投資家の不安を和らげようと「政府として日本銀行とも連携しながら、緊張感を持って注視する」と表明した。しかし、日銀は今年3月、金融政策正常化の一環として上場投資信託(ETF)の購入停止を決めた。株安に直接歯止めをかけるすべは残されていない。
5日は日経平均の下落率がブラックマンデー時に次ぐ12.4%に達した。市場関係者は、「国内の機関投資家はいったん手を引かざるを得なかった」(国内運用会社)と解説する。
一方、企業業績は底堅く、「明らかに売られ過ぎ」(大手証券)と、これほど急激な下落が続くとは考えづらいとの声も聞かれる。60代の男性投資家は「週明けは下げ止まると期待したのに裏切られた」と苦笑いしつつ、「長期投資なので売ることはない。パニックによる異常な下げならいずれ回復する」と、冷静に話した。(了)
(記事提供元=時事通信社)
(2024/08/05-20:21)