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訪日客4千万人時代の異変…露・中東・印が爆増する理由と、高市政権下の対中リスク

2025.12.13 2025.12.12 23:18 経済

訪日客4千万人時代の異変…露・中東・印が爆増する理由と、高市政権下の対中リスクの画像1

●この記事のポイント
・日本の訪日客数が過去最高を更新する一方、ロシア・中東・インドからの旅行者が急増し、インバウンド構造が大きく転換している。
・ロシアの東方シフト、中東富裕層の避暑需要、インドIT層のビジネス往来など、各地域特有の経済・心理要因が日本を選ぶ背景にある。
・こうした国籍多様化は「対中リスク」への備えにもなり、高市政権下で日本の観光構造がより強靭で持続的なモデルへ移行しつつある。

 日本のインバウンド市場が、これまでとは質的に異なるフェーズへと突入している。日本政府観光局(JNTO)が発表した2025年10月の訪日外国人旅行者数は389万6300人。単月としての過去最高更新に加え、1〜10月累計はすでに3500万人超と、年内の4000万人突破が確実な情勢だ。

 しかし、より重要なのは「訪日客の数」ではなく「構造の変化」である。欧米豪が堅調に2桁成長を続ける一方、ロシア、中東、インドという、これまで「準主要国」と扱われてきた地域からの訪日客が異様な伸び率を示している。

 旅行需要は世界的に回復しつつあるが、日本を取り巻く地政学・為替・産業構造が重なり、これらの地域で“特異な追い風”が吹いているのだ。

●目次

「欧州に行けない」ロシア富裕層の東方シフト

 10月統計で特に目立つのは、ロシア発の訪日客急増である。ウクライナ侵攻に対する制裁下にある国からの渡航増加は一見不可解だが、観光業界では一定の“読み通り”でもある。

 都内の外資系ホテル幹部はこう語る。

「欧州諸国の制裁で、ロシア富裕層にとって“行ける国”は劇的に限定されました。トルコやドバイ、東南アジアはすでに行き尽くし、次の選択肢として日本が浮上してきた。政治的対立はあっても、日本の食・文化・自然の“品質の高さ”は彼らに強烈に魅力的に映っています」

 直行便が減少したとはいえ、北京・アブダビ・ドバイなどのハブ空港経由の便供給は回復基調だ。また、旅行会社関係者によれば「円安により、日本の高級体験が“割安”に感じられることが最大の誘因」という。以前はヨーロッパで消費していた高額支出が、日本に流れ込んでいる格好だ。

 さらに、観光アナリストの黄海亮二氏は次のように分析する。

「制裁による西方の封鎖が、ロシア人の旅行選好を“アジア指向”に構造変化させています。これは一時的ではなく、政治状況が改善しない限り継続する可能性が高い」

中東・インドを引き寄せる「避暑」と「ITの接続」

 ロシアと並び、ここ1〜2年で急激な伸びを見せているのが中東地域とインドである。

●中東富裕層が求める“安全・清潔・四季”の避暑地

 湾岸諸国の富裕層にとって、日本はもはや“新興避暑地”として確立しつつある。背景には、欧州観光地が抱える構造課題がある。
・歴史的都市でのオーバーツーリズム
・夏の猛暑激化
・一部地域での治安悪化

 この代替地として、日本の「四季」「清潔な都市」「医療観光」が注目されている。

 医療ツーリズムを扱う旅行業者はこう見解を述べる。

「湾岸の富裕層は“安全で家族で長期滞在できる場所”を重視します。日本は医療の信頼性が高く、欧州よりもプライバシーが守られるため、胆石・心臓・整形などの高度医療と観光を組み合わせるケースが増えています」

 ビザ要件の緩和も、この流れに拍車をかけている。

●インド急伸の背景に「IT」と「ブリージャー文化」

 インドからの訪日客は、所得向上だけでは説明できない勢いで増えている。最も大きな要因は日本の産業構造の変化だ。

・日本企業によるインドIT人材の採用・提携の増加
・日印ビジネス往来の常態化
・出張と観光を組み合わせる“ブリージャー”の普及

 ITジャーナリストの小平貴裕氏は、ビジネス事情もインドからの観光客増加に影響を与えているとの見解を語る。

「インド企業が日本市場で存在感を増し、日本企業もインドの技術系人材に依存し始めている。その結果、BtoBの往来が個人観光需要を押し上げる構造ができています」

 さらに、SNSでの“日本の情報流通力”も強い。「ベジタリアンでも意外と食に困らない」「日本人は親切で安心」といったポジティブ情報が、中間層の旅行需要を刺激している。

高市政権と「チャイナリスク」──国籍ポートフォリオ分散の意味

 現政権下で最も注目されるのが、インバウンドの国籍構成変化が中国リスクの緩衝材となる点だ。

 高市政権発足後、日中関係は外交・安全保障領域で緊張を強めている。

・セキュリティ・クリアランス(適性評価)制度
・経済安保ガイドライン
・靖国参拝問題

 これらは、中国政府が「団体旅行の停止」などを対抗措置として発動する懸念と常に隣り合わせだ。

 観光庁関係者は現状をこう説明する。

「2019年のように訪日客の3割が中国だった時代なら、旅行停止措置は日本経済に壊滅的でした。しかし現在は、欧米豪に加え、ロシア・中東・インドという多極化が進み、依存度は大幅に低下しています」

 さらに、前出の黄海氏はこう付け加える。

「中国依存からの脱却は、日本が『質』を重視した観光立国になるための必然的プロセスです。個人旅行・高付加価値消費・長期滞在の伸びは、景気変動や地政学リスクに強い構造をつくります」

 爆買い頼みの時代から、体験・宿泊・医療・文化消費へ。消費の質が変わり、リスク耐性が高まりつつある。

多極化するインバウンドは「新たなステージ」へ

 2025年、日本は単に訪日客数を回復させただけではない。
・ロシアの東方シフト
・中東富裕層の避暑需要
・インドIT層のブリージャー

 こうした複数の“潮流”が重なり、日本のインバウンド構造は近隣アジア依存から脱却しつつある。

 これは観光産業だけではなく、日本の国家戦略にとっても大きい。

「国籍ポートフォリオの分散」は、外交リスクに左右されない観光立国への進化であり、中国リスクの高まる高市政権にとって、極めて重要な“安全弁”となる。

 4000万人時代の到来は終着点ではない。むしろ、日本が「真の観光立国」として自立できるかを図る試金石なのだ。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)