「週刊東洋経済」(東洋経済新報社/2月15日号)は、第2特集で『崖っぷち任天堂』という特集を組んでいる。1月17日、任天堂は業績予想を大幅に下方修正した。2014年3月期、本業でのもうけにあたる営業損益が1000億円の黒字予想から一転、350億円の赤字になるとの見通しを発表した。岩田聡代表取締役社長が掲げていた1000億円以上の営業利益目標に届かないどころか、3期連続営業赤字に沈んだ。「業績不振の真因であるWii Uの苦戦には、知られざる『2つ』の伏線が存在した」という内容だ。
2つの伏線とは、宮本茂代表取締役専務・情報開発本部長の高性能路線への方針転換による「ソフト開発遅れ」と「サードパーティ(ソフトメーカー)製ソフトの不足」だ。
任天堂は09年3月期のピーク時には携帯ゲーム機ニンテンドーDSと据え置き型ゲーム機Wiiにけん引され、売上高1兆8386億円、営業利益5552億円を計上、それに比べると今年度の売上高は5900億円とピーク時の3分の1になっている。
12年12月にWii Uを発売したものの、当初から販売は不振を極めた。その原因は、据え置き型ゲーム機Wii Uの発売を年末に控えた12年夏、量産体制に入ろうとする段階に来て、ソフトが正常に起動しなくなるというアクシデントが発生し、慌てた任天堂経営陣は、クリスマス商戦に間に合わせるためにソフト開発部門を含めて人員の多くをトラブル対策に振り向けた。Wii Uはなんとか予定通り発売にこぎ着けたが、ソフト開発に遅れが生じたのだ。発売から翌3月末までに出た、任天堂が発売元の国内向け作品は3本止まり。前世代のゲーム機Wiiの同時期に出た8本に比べると、出遅れ感が否めない。
また、それまでの任天堂は誰でも楽しめるゲームづくりでユーザーを拡大してきた。しかし、Wii Uでは高性能路線へ方針転換をし、ハードやコントローラーのスペックなどがサードパーティに提供されるのが遅く、サードパーティ製ソフトの不足も招いてしまったのだ。
●失敗の背景に岩田・宮本体制か?
同誌は、こうした失敗の背景には13年6月に行われた人事が影響していると指摘する。その人事では、ナンバー3とされていた波多野信治代表取締役専務営業本部長兼業務本部長など古参の幹部が退任し、岩田聡代表取締役社長と宮本茂代表取締役専務・情報開発本部長のラインが強化されたのだ。
岩田氏はゲーム開発会社ハル研究所のゲームプログラマーから社長となり、ゲーム開発の実績を買われ、当時の山内溥社長によって引き抜かれるかたちで任天堂に入社。入社2年目にして、3代続く山内家一族経営、並み居る他の古参取締役陣といった社内事情を押しのけて社長に就任。04年のニンテンドーDSの爆発的なヒットで、その地位を盤石なものとした。岩田氏の社長就任と同時に代表取締役専務に就いたのが宮本氏だ。
宮本氏は「スーパーマリオ」「ゼルダの伝説」といったヒット作を生み出し、「おいでよ どうぶつの森」「Wii Sports」「Wii Fit」を投入してきたスーパーゲームクリエイターだ。
さらに、これまでは波多野氏がサードパーティや初心会といわれる任天堂独自のネットワークを束ねてきており、岩田・宮本とのトロイカ体制によって任天堂はうまく機能していたのではないか、というのだ。
今後は、スマートフォン(スマホ)へのゲーム配信とキャラクターのライセンスビジネス戦略に進むべきとの見方が大勢を占めるが、今回の岩田・宮本体制の強化により、宮本氏のゲーム開発の一発逆転に託すことになるのではないかとの懸念がある。「ゲーム市場は決定的なソフトが1本出れば、状況ががらりと変わる」と岩田社長も発言している。
岩田社長はスマホへのゲーム配信は完全否定したが、14年中に広告宣伝ツールとしてスマホアプリをリリースすることを明らかにした。ライセンスビジネスはデジタル分野にも広げるなど積極的だ(特集記事『任天堂復活シナリオの現実味』)。