●スマホ参入、非上場化を岩田社長は否定
東洋経済の特集はここまでだが、2月4日には、任天堂は最大1000万株(発行済み株式の7.82%)の自社株買いを行ったが、その株式は発行済み株式数の約10%を保有していた山内前社長の遺族4人が相続した株式の一部と見られている。つまり、山内家一族の影響力も弱まっているのだ。
任天堂の株主の半数は外国人投資家だ(約47%)。1月20日付英フィナンシャル・タイムズ記事『任天堂が業績下方修正、スマホ戦略は不可避に』では、「思い切って新たなことを始めるのが唯一の解決策だ」と指摘するように、外野は「スマホ戦略への移行を早くせよ」と喧しい。こうした声に岩田社長は「任天堂のソフトはもともとコントローラーで操作する前提でつくったもので、スマホに持っていってすっとはまるものは少ない。スマホ展開は業績回復の特効薬ではない」と反論している。
ここはいっそ、MBO(経営陣買収)による非上場化をしたらどうか、という興味深い提案をするのは、2月5日付日本経済新聞電子版記事『任天堂・岩田社長へのご提案 MBOで非上場化を』だ。
「もともとヒット作の有無で業績が揺れ動く娯楽産業は先の見通しが立ちにくく、株式投資の対象としては危なっかしい存在だ」とし、「(任天堂は)業績低迷企業のトップによくある『追い込まれ感』もない。同社は業績好調時に築いた総額9000億円以上の『現金の山』があり、今も配当を継続中。同じ赤字企業とはいえ、銀行団に生殺与奪の権を握られた経営不振の電機メーカーとはまったく事情が異なる」と、MBOによる非上場化を岩田社長に直接提案したところ「これまで株式市場にはいろいろお世話になってきた。都合が悪くなったから、逃げるということはしたくない」と答えが返ってきたという。
これに対し同記事では「経営の真意をなかなか理解してくれない市場と今後も付き合っていくのは、さぞ骨の折れることだろう。もう少し株価が下がれば、MBOを真剣に検討する余地が広がると思われる」と、市場との決別を勧めている。
安値で手放さざるを得なくなる外国人投資家が黙っていないと思われるこのMBO提案、グローバル化、オープンマーケットの論調をリードする日経らしからぬ、考えさせられる論考だ。
(文=松井克明/CFP)