「週刊ダイヤモンド」(ダイヤモンド社/4月12日号)は『暴走!日本株 ボロ儲けしたのは誰だ』という特集を組んでいる。「昨年、世界最大の上昇を成し遂げた日本株だが、ここ最近どうも様子がおかしい。株価の振幅は新興国よりもはるかに激しく、世界最悪の乱高下を記録する日も珍しくない。しかも株価は国内要因には反応せず、海外要因にばかり振り回される。その裏でボロもうけしているのは外国人投資家ばかり。暴走する日本株の深層に迫った」という内容だ。
一方、「週刊東洋経済」(東洋経済新報社/4月12日号)は『厳選!! 今買える株 買えない株』という特集を組んでいる。「乱高下が続く日本株だが、『下げ相場』に強い株は確かに存在する。NISAをきっかけに投資を始めた初心者でも安心して買える株はどれか。独自データを駆使し初心者向けの株を厳選した。中上級者向けに『割安株』『リバウンド狙い株』も発掘。初心者NGの株も収録」という内容だ。
実は、ダイヤモンドも東洋経済も、この4月から編集長が代わったばかり(東洋経済は女性編集長だ)。その違いがどのように現れるかと思いきや、テーマが似通ってしまったのは皮肉な話だ。確かに、今年から始まった少額投資非課税制度(NISA)により、個人マネーの市場への流入が続いている。
NISAは年100万円までの投資について、株式や投資信託から得られる譲渡益や配当が5年間非課税になる制度。利用には専用の口座をつくる必要があるため、開始後3カ月で600万強の口座が開設され、(主な証券会社だけで)NISA口座を介した株式や投資信託の購入額は5000億円規模に上っているという(4月8日付日本経済新聞記事『NISA 5000億円流入 開始3カ月、女性が4割』)。
女性の利用も全体の4割を占めている(通常の株式などでは、女性投資家の割合は2~3割だ)。NISA投資家の関心の中心は配当金。「好んで買う銘柄を尋ねたところ、株式では武田薬品工業やみずほフィナンシャルグループといった相対的に配当金の多い銘柄が上位に並んだ。年間の配当額を株価で割った配当利回りをみると総じて3~4%台と高めだ」「投信でも、分配金が比較的多い不動産投資信託(REIT)の人気が高い」(同記事)
日本の株式市場は、外国人投資家が事実上支配
新年度相場はますますNISAが注目かと思いきや、日本の株式市場の現状は極めて危うい。
アベノミクスで上り詰めた2013年末、日経平均株価は1万6291.31円(年初来高値更新)で終えた。しかし、年が明けると1万6164.01円(1月6日)から乱高下を繰り返し、4月7日終値で1万4724.42円と、いわば“急落”しているのだ。
「年初に市場関係者の多くが口にしていた『4月末までに1万8000円』実現は極めて厳しくなった」(東洋経済)
「下落要因となったのは、新興国経済不安、中国の景気指標悪化と金融システム不安、米国の景気指標悪化と量的緩和政策の動向、そしてウクライナ情勢など。この間、大きく売っていたのはグローバルマクロ型ヘッジファンドやCTA(先物市場で24時間自動売買)のプログラム売買だとされる。彼らの投資行動の基準となる世界の“トレンド”が下に傾いたため、日本株は、機械的に売られていった」(ダイヤモンド)
外国人投資家が事実上支配しているのが、日本の株式市場の実態なのだ。値動きの荒さは新興国並みだ。
「たとえば、3月14日。ウクライナ情勢の緊迫と中国の景気懸念で世界の株式が売られたが、当事者である中国の株(上海総合指数)が0.7%の下げだったのに対し日本株の代表的な指数、日経平均株価は488円安、3.3%の急落となった。今年に入ってからの1日当たりの変動率は日経平均が1.4%。これはウクライナ問題で揺れるロシアの1.4%と同等で、インドの1.0%」を上回る」(東洋経済)
「結果として、日本株市場は世界でトップ3に入る規模の市場であるにもかかわらず、新興国よりもひどい株価の乱高下が横行しているわけだ。男の同僚は『日本市場を先進国マーケットと考えているのは、日本人くらいですよ』と鼻で笑った」(ダイヤモンド)
「今年に入ってNISAで株を買い始めた個人投資家の多くは、外国人投資家がバカスカ売って株価が下がった結果、いきなり塩漬け(損が確定してしまうので、売るに売れない)になってしまった」(同)
アベノミクスに懐疑的なダイヤモンド、日本株推奨の東洋経済
日本の株式市場が危うい、という点はダイヤモンドも東洋経済も一致している。しかし、ではどうするか? という点で大きく差が出た。
ダイヤモンドは『外国株のプロが初公開する 先進国優良銘柄への投資術』という記事で欧米先進国、経営力の高いグローバル企業への投資を勧める一方で、国内株に関しては、かなり否定的だ。ヘッジファンドではない、中長期の海外機関投資家も日本の外交問題や政治姿勢を懸念しているからだ。
「安倍首相の関心が経済ではなく安全保障に傾いている、とみているため、日本株が割安にもかかわらず買いを入れず、様子見の姿勢になっている」
「“成長戦略に対する期待はすでに剥げ落ちた”というのがほぼ共通見解だ」
「何も成果を見せられなければ、現在はまだアベノミクスに懐疑的な中長期機関投資家の見方も、完全に“失望”に変わるだろう」
このように述べて、安倍政権の経済政策をあきらめ始めている。
一方、全編にわたって、国内株特集になっている東洋経済によれば、なんとアベノミクスが第2幕に入るという。
「日程的なポイントとなるのは6月。政府は6月までに『骨太の方針(経済財政運営の基本方針)』と『成長戦略第2弾(改定版)』をまとめる計画である」「昨年1年間の上昇相場を『アベノミクス相場』と位置づければ、いわば『アベノミクス相場第2幕』がここから始まるのだろう」
今回は安倍政権も本気で、「岩盤規制」に穴を開け始める。仮に消費増税後の景気の落ち込みがあれば、日本銀行が追加の「異次元」金融緩和に踏み切り、下支えに動くという、なんとも楽観的な経済予測の下に、3年後に得する株を推奨し、記事『株式投資 初歩の初歩』『今さら聞けない NISAの注意点』と投資に誘っている。そこまで日本株を買わせたいのかと疑念が生じるが、東洋経済新報社はかつてのドル箱、いまや風前のともしびの投資家のための企業情報「会社四季報」を抱えている。つまり、日本株を買うなとはいえないドグマ(教義、信念)があるのだと思えば納得がいく。
また、ここにきてNISAに関する記事を掲載し始めた日本経済新聞にも触れておきたい。4月7日付同紙「社説」では『NISAを普及させるには』という記事を掲載し、「個人は投資のリスクを避ける傾向が強いとされていたことを考えれば、(NISAは)かなりの速さで広まっているといえるのではないか。これを一過性にせず、個人の資産形成に役立つ制度として定着をはかっていきたい」と書くほど、NISA普及の急先鋒になっている。当然ながら「定着のために、たくさんの広告を掲載していきたい(よって、手数料で儲けたい各社には広告費を出していただきたい)」というのが本音だろう。
経済メディアにあおられて購入し、現在、含み損で塩漬け状態のNISA投資家たちからの怨嗟の声が聞こえてきそうだ。
(文=松井克明/CFP)