(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部・主席エコノミスト)
●冷夏、梅雨明けの遅れをもたらすエルニーニョ
世界的に異常気象を招く恐れのあるエルニーニョ現象がこの夏、5年ぶりに発生する可能性が高まっている。気象庁が4月10日に発表した最新の「エルニーニョ監視速報」によると、エルニーニョ現象が夏に発生する可能性が高いと予測されており、市場関係者の間では景気への悪影響を懸念する声も聞こえ始めている。
エルニーニョとは、南米沖から日付変更線付近にかけての太平洋赤道海域で、海面水温が平年より1~5度高くなる状況が、1年から1年半続く現象である。エルニーニョ現象が発生すると、地球全体の大気の流れが変わり、世界的に異常気象になる傾向がある。最近では2009年夏から10年春にかけて発生した。その際、アジア全土で多雨、西日本で長期的な豪雨、北日本で寒秋となった。また、欧州・北米・中国・韓国・インドで記録的な大寒波、日本では全国的な平均気温は平年よりも高く気象庁は暖冬だったと発表したが、西日本~北日本の日本海側で一時的に強い寒波・豪雪、東日本~北日本では寒春など寒暖差が大きくなった。
最も被害が拡大したのは93年夏から冬である。日本は39年ぶりの冷夏となり、大雨や日照不足もあって稲作を中心に農作物に被害が出た。気象庁の過去の事例からの分析では、エルニーニョの日本への影響として、気温は西日本を中心に平年より低い地域が目立つことや、降水量は平年より増える地域が多く、西日本の日本海側や東日本の太平洋側で顕著となること、さらには、梅雨明けは沖縄を除き遅くなる傾向がある、ということ等が指摘されている。
●90年代以降、エルニーニョ期間の半分以上が景気後退期
実際、エルニーニョの発生時期と我が国の景気局面はどのような関係があるのかを調べると、驚くべきことに1990年代以降はエルニーニョ発生期間と景気後退局面は実に51.7%もの確率で重なっていることが判明する。
特に90年代以降で見てみれば、91~92年と93年のエルニーニョ現象は、91年3月~93年10月まで続いた景気後退局面に含まれる。また、97~98年のエルニーニョは、ほとんどの月が97年6月~99年1月まで続いた景気後退局面に含まれている。
潜在成長率が4%程度あったとされる80年代までなら、気象要因が景気の転換点に大きな影響をもたらすことは想定しにくかった。しかし、90年代以降になると、バブル崩壊により潜在成長率が2%程度、最近では1%以下に下方屈折しているといわれる状況では、気象要因により景気の転換点に変化が及ぶことも十分に考えられる。実際、93年の景気後退局面においては、景気動向指数の一致DIが改善したことを根拠に、政府は93年6月に景気底入れを宣言したが、円高やエルニーニョ現象が引き起こした長雨・冷夏等の悪影響により、景気底入れ宣言を取り下げざるを得なくなったという経緯がある。93年といえば、日本は全国的に記録的な冷夏に見舞われ、特に東京の平均気温は平年を2.6度も下回った。
以上の事実を勘案すれば、仮にエルニーニョ現象により夏場の天候が不順となれば、日本経済に悪影響が及ぶことは否定できない。