●大阪市とUSJの確執
その後どうなったのか。裁判記録を追ってみると、USJと大阪市が「信頼関係を築けない」壮絶なバトルが見えてきた。
まず、確認したいことは、現在のUSJは大阪市とは土地の貸借関係があるにすぎないということだ。かつては経営にも関わっていた大阪市だが、今は完全に手を引いている。USJを運営するユー・エス・ジェイの主要株主、クレインホールディングスの親会社は世界最大級の投資銀行・ゴールドマンサックス。そして、ユー・エス・ジェイの現在の社長であるグレン・ガンペルは弁護士資格を持つプロの交渉人、タフネゴシエーターとされている人物だということだ。単なるテーマパークの運営というわけでもなさそうなビジネスライクさが感じられる。
確かに、USJ側も巧みだ。民間地権者とは価格交渉の末に平均516円の賃料にしており、誘致の主体となった大阪市とは前提条件がまったく異なると反論した上に、大阪市側の「388円を516円に」という増額確認に対し、11年時点では新規賃料は相場が下がっており、逆に「388円を372円に」すべきという減額確認訴訟を反訴したのだ。また、12年には和解へのきっかけとなる市長・社長面談を持ちかける手も使っているが、前年に就任したばかりの橋下市長は面談を拒否している。
裁判自体は、2人の不動産鑑定士がそれぞれ妥当額を「520円」「442円」と鑑定し、その根拠の疑義をめぐる応酬が続いている。
●大阪市が再度提訴
さらに興味深いのは、今年に入って、再び大阪市側がUSJ側に対し、増額確認訴訟を起こしていることだ。主要な貸借地に関しては「3年ごとに賃料を見直す」という合意の下、13年4月以降は「516円が581円に」上がったとして、さらなる増額請求を行ったのだ。
これにUSJ側は猛反発している。「訴訟の最終局面にかかわらず」、現在争っている516円を前提として581円への増額請求をするのは、「訴訟物の同一性を理由とする民訴法142条違反」ではないか。また民事調停法24条の2の要請する調停前置主義を無視したことに対し、裁判所にこの手続きの進行停止を求めている。
一方、大阪市側は「双方の主張が4年間にわたり厳しく対立している状況」で、「本件について、調停に付されても調停成立の見込みがまったくないことは明らかであるので」と例外的ケースであることを強調する。
交渉は、より高いハードルを出して譲歩を引き出す――橋下流の交渉術が、ここでも発揮されているというべきだろうか。今後はUSJ側のガンペル社長がどういった手を出すのかが注目されるところだ。最近、USJの福岡や沖縄への進出話も浮上してきているが、切り札の1つなのかもしれない。
これだけでも下手なアトラクションよりも断然面白いタフネゴシエーター同士のバトルなのだが、さらに興味深いのは大阪市が貸しているUSJのエリアは、その多くが駐車場と「ウィザーディング~」が位置していることだ。
つまり賃料係争中の土地の上にホグワーツ城やホグズミード村があるのだ。200分待ち(8月上旬時点)ともなっているハリー・ポッターのアトラクションに並ぶ際には、こういったことにも思いを馳せてみるのはどうだろうか。
(文=松井克明/CFP)