時代は流れ今年6月、東レ会長の榊原定征氏が第13代経団連会長に就任した。同職は現役副会長の中から登用するのが慣例だったが、2代続けて副会長OBからの起用となった。その背景には「財界の深刻な人材不足」(財界筋)があるともいわれている。
榊原氏が就任直後に取り組んだのは、安倍政権・自民党との関係修復である。自民党と経団連の関係は、米倉弘昌・前会長(元住友化学会長)が2012年11月に同党の経済政策を批判したのを機に冷え込んだ。そのため、同年12月に第2次安倍政権が発足すると、政府の経済財政諮問会議民間議員に米倉氏が選出されないという「異例事態」(経済記者)が起こった。榊原新経団連は安倍政権との関係修復に踏み出し、9月には自民党を念頭に5年ぶりとなる政治献金再開を決めた。
これに呼応して、政府は経済財政諮問会議民間議員に榊原氏を起用。経済政策を検討する主要会議のメンバーに財界トップを加えることで、経済界との連携を強化。年末に向けて重要課題を乗り切りたいとの思惑が透けて見える。榊原氏は安倍政権批判を封印し、安倍晋三首相が今年の靖国神社の秋の例大祭に真榊(たまぐし)を奉納した際も黙認の姿勢を貫いた。
「榊原氏は裏では『いくら自分の思想信条があっても、日中関係を考えたら国のトップにいる時は避けるべき』と言っていました。3名の女性閣僚の靖国参拝についても同様です」(経済記者)
また、衆議院解散に踏み切った安倍首相は、「法人税減税と賃上げは一体で行う」と表明。法人税減税で恩恵を受ける企業側に賃上げを求めたが、榊原氏は法人税引き下げを前提に、経団連会員企業に来春の賃上げを促すことを安倍首相に確約した。
経団連と経済同友会、変化する政権との距離
安倍政権発足直後、経団連に代わる“財界与党”となったのが経済同友会だった。政府の諮問会議に経済同友会会員企業のトップが多数参加した。長谷川閑史代表幹事(武田薬品工業会長兼CEO)と新浪剛史副代表幹事(サントリーホールディングス社長)は産業競争力会議、小林喜光副代表幹事(三菱ケミカルホールディングス社長)は経済財政諮問会議、同じく副代表幹事で政策懇談会委員長の金丸恭文氏(フューチャーアーキテクト会長兼社長)は規制改革会議の委員に選出された。
だが、9月の経済財政諮問会議民間議員の入れ替えで、安倍首相は振り子の針を経団連に戻し、榊原氏を起用。小林氏は産業競争力会議に横滑りした。
その経済同友会は11月21日に開く幹事会で小林氏の新代表幹事就任を内定し、来年4月に開く通常総会で正式決定する。「長谷川氏だけでなく代表幹事経験者OBも小林氏しか適任者はいないと考え、落ち着くところに落ち着いた」(財界筋)。
ちなみに新浪氏も次期代表幹事就任に意欲を示していた時期もあったが、サントリー社長、経済財政諮問会議委員、経済同友会代表幹事の3つを掛け持ちするのは事実上不可能だった。次期代表幹事選びは、現職の長谷川氏ら13人で構成する選考委員会で議論してきた。
「選考の過程では金丸氏、新浪氏、LIXILグループの藤森義明社長の名前が挙がっていたが、次善、いや三善の選択で小林さんに落ち着いた。選考委員による投票で小林氏支持は確かに多数だったが、過半数には達していなかった」(経済同友会代表副幹事)
ある財界筋は、「かつては各業界の大物実力者たちが経済界を代表して政治や諸外国政府と張り合った財界という世界は、もはや過去の遺物となった。経団連や経済同友会もすでに歴史的役割を終えており、大企業優遇的な主張や行動がむしろ国内産業・経済全体にとってマイナスの影響を与えるケースも散見される。もはや存在意義はなく、解体したほうがよい」と言い切る。日本の産業構造の変化がもたらした当然の帰結といえるのかもしれない。
(文=編集部)