1994年4月から2006年にかけて全42作品(スペシャル版を含む)が放送された大ヒット刑事ドラマ『古畑任三郎』(フジテレビ系)が、新キャストでリメイクされるという噂が流れている。同じく三谷幸喜が脚本を担当し、田村正和が当たり役とした古畑任三郎役は阿部寛とオダギリジョーが有力候補で、西村雅彦が演じた今泉慎太郎役は大泉洋に絞りこまれたとの報道もあった。
SNS上では、このキャスティングに対し賛否両論が飛び交っており、古畑役に上記2名ではなく堺雅人、木村拓哉などを推す声もある一方で、「古畑役は田村正和以外に考えられない」という意見も目立つ。
こうした人気ドラマのリメイク作品は、最初からタイトルの知名度、作品に対する注目度が高いというプラス面がある。一方で、どうしてもオリジナルと比較されてしまうため、Webで叩かれやすい、視聴者に見放されやすいというマイナス面もある。
このプラスとマイナスが差し引きされた結果、視聴率はオリジナルを大きく下回る場合がほとんど。そのためリメイク作に出演することは、俳優にとってリスキーな行為だともいえ、オファーがあっても断っている大物俳優もいるかもしれない。
ということでここでは、“オリジナルを超えられなかった人気ドラマのリメイク作品”を取り上げたい。なお、三浦綾子原作の『氷点』や、山崎豊子原作の『白い巨塔』のように、著名な原作ありきで、放送局、放送形態、スタッフを変えて何度もドラマ化されている作品は除外する。
AKIRA主演の『GTO』には「これじゃない」の声殺到
藤沢とおるのコミックを原作とし、反町隆史主演で1998年に放送された『GTO』(フジテレビ系)は、平均視聴率 28.5%(ビデオリサーチ調べ、以下同)という大人気ドラマだった。最終回には35.7%もの高視聴率を記録し、翌年に映画化もされている。なお、のちに夫婦となる反町と松嶋菜々子が出会った作品でもある。
この『GTO』は、2012年にキャスティングを一新してリメイクされることになる。反町が演じた主人公の鬼塚英吉役は当初、元KAT-TUNの赤西仁が内定していたとされる。ところが赤西の降板により、EXILEのAKIRA主演に。AKIRAにとっては連続ドラマ初主演作となった。また、松嶋菜々子が演じた冬月あずさ役には、瀧本美織が起用された。
SNSで「これじゃない」と散々ツッコまれたこのリメイク版『GTO』は、数字的にはオリジナルの足元にも及ばなかった。ただし、全11話中、最低が第5話の11.5%と1度も10%を割ることなく、平均視聴率は13.2%。実は“大惨敗”というほどではなかったのである。むしろ、「反町&松嶋」と「AKIRA&瀧本」の出演時のネームバリューを比較すると、十分に成功といってもいい結果かもしれない。
藤木直人&上戸彩の『高校教師』は宮崎アニメに潰される
1993年1月8日から放送された、高校の男性教師(真田広之)と女子高校生(桜井幸子)との許されない恋を描いた『高校教師』(TBS系)は、平均視聴率 21.9%のヒット作。特にラスト数話で数字はグングン上がり、最終回では33.0%を記録する。
約10年後の2003年に、藤木直人と上戸彩が出演した同じ『高校教師』というタイトルのドラマが放送された。ストーリーも異なり、前作と同じ登場人物(京本政樹演じる教師)もいることから続編という体裁だったが、男性教師と女子高校生の悲劇的な恋愛をモチーフとするのは同じであり、実質、リメイクといってよかった。
この作品、話題性は十分だったが、初回の14.9%を最後に、視聴率は上がることはなく平均 10.8%と前作の半分程度にとどまった。なお、最低視聴率だった第3話(6.4%)は、同時間帯に日本テレビ系で『千と千尋の神隠し』の地上波初放送があり、46.9%という怪物的な数字を弾き出したという悲劇もあった。
『金田一少年の事件簿』(日本テレビ系)は、出演者を変えて同じ枠で何度もドラマ化されている。連続ドラマとしては最初の堂本剛主演版がもっとも視聴率が高く、1995年の第1シリーズが平均23.9%、1996年の第2シリーズが22.4%と大ヒット作の部類だ。続く2001年の松本潤主演版は平均13.7%。2014年に放送された山田涼介主演版は10.5%だった。なお、松本版と山田版の間に、亀梨和也主演版が2005年にスペシャルドラマとして1本だけ制作され、これは18.6%だった。
堀北真希に負けて主演女優の座を奪われた前田敦子
2007年に放送された堀北真希主演の『花ざかりの君たちへ~イケメン♂パラダイス~』(フジテレビ系)は、小栗旬、生田斗真、水嶋ヒロ、山本裕典、岡田将生ら、当時の若手イケメン俳優が勢揃いしたこともあってか、平均視聴率17.04%のヒット作となった。
これを、視聴者に前作の記憶も鮮明に残っているであろうわずか4年後の2011年にリメイクしたのが、『花ざかりの君たちへ~イケメン☆パラダイス~2011』である。これは、AKB48在籍時の前田敦子が主演で、中村蒼、三浦翔平、桐山漣、間宮祥太朗というイケメン勢が揃った。直前に同じ枠で放送されていたのが『マルモのおきて』で、その最終回は23.9%。これに対し、『花ざかりの~』の初回は、10.1%と大きく落ち込んだ。しかも、それが全11話のなかで最高であり、第2話以降は急落し、第4話では5.5%と危険水域に迫り、打ち切りも噂された。最終的に平均は7.1%。これで、国民的アイドルグループのセンターだった前田敦子は「数字を持っていない」と判断されたのだろうか。以後、今に至るまで彼女が民放地上波ゴールデンタイムでの連続ドラマに主演する機会は1度もない。
石原さとみ、綾瀬はるか、深田恭子が束になっても惨敗
2005年に、かつて山口百恵らの主演で大ヒットした「赤いシリーズ」(TBS系)が、ホリプロ45周年・TBSテレビ放送50周年記念作品「赤いシリーズ2005」としてリメイクが試みられたことがあった。
「赤いシリーズ」は、1974年の『赤い迷路』から、1980年の『赤い死線』まで全10作品があり、タイトルに「赤い」が付く以外に作品ごとにつながりはなく、“過酷な運命を背負った主人公が、周囲の人達に支えられながら苦難を乗り越えていく”というストーリーだけが概ね共通していた。そして、うち6作品で、主役ないしはヒロイン役を演じていた山口百恵がシリーズの顔だった(ほか1作品にゲスト出演)。
リメイク構想は、山口百恵出演の3作、『赤い疑惑』(平均視聴率23.4%)を石原さとみ、『赤い運命』(平均視聴率 23.6%)を綾瀬はるか、『赤い衝撃』(平均視聴率 27.0%)を深田恭子主演でそれぞれリメイクするというものだった。なお、この3女優はいずれもかつて山口百恵が所属したホリプロの後輩にあたる。
まず、石原さとみの『赤い疑惑』が2005年6月15日、22日、29日の3週連続で放送され、平均視聴率は14.2%とオリジナルを大きく下回る。ただし、この時代のドラマとしては及第点といえた。
次に綾瀬はるかの『赤い運命』は2005年10月4日~10月6日の3夜連続の放送となり、こちらは平均10.9%と、“コケた”と言い切れないものの「ホリプロ45周年・TBSテレビ放送50周年記念作品」と銘打った割には寂しいものだった。
さて、問題は残る『赤い衝撃』である。これは、ホリプロ3女優のなかでももっともキャリアが長い深田恭子に用意されていたわけだが、前2作の今ひとつ微妙な数字に企画の練り直しが図られた。また、もう1つの深刻な問題があった。『赤い衝撃』は陸上の短距離選手が主人公であるという点である。今年、水着写真集をリリースするなど、37歳にして見事なプロポーションを維持している深田恭子だが、当時は体重が少々増加気味で、とても陸上選手に見えなかったのである。
そのため、「深田恭子のイメージが陸上の選手に合わない」というオフィシャルな理由から、『赤い衝撃』のリメイクは中止に。その代わりに、人気のあるフィギュアスケートをモチーフとした新作『赤い奇跡』が制作されることに。この作品は、「26年ぶりの『赤いシリーズ』完全新作」という宣伝文句とともに、2006年4月9日~10日に2夜連続とスケールダウンして放送された。ところが、肝心の視聴率は第1話9.3%、第2話8.3%と低迷。どちらにしてもダメだった。もし、同じタイミングで予定された『赤い衝撃』を放送しても、視聴率が跳ね上がった要素があるとは考えられず、『赤い衝撃』は幻の“オリジナルを超えられなかった人気ドラマのリメイク作品”となった。
そのほか、2020年には、1991年『東京ラブストーリー』(フジテレビ系)の現代版リメイク作が制作されたが、これは配信ドラマであり、社会現象になったオリジナルを超えられないことは最初から明白だった。
その他、1983年の『おしん』(NHK)、1984年の『スクール☆ウォーズ ~泣き虫先生の7年戦争~』(TBS系)など、大ヒットしたドラマを時を経て映画化する例もあったが、これらも見事にコケている。
このようにリスクの高い、名作ドラマのリメイクだが、『古畑任三郎』は果たしてどうなるのか? そもそも本当にリメイク放送されるのであろうか?