『半沢直樹』『あなたの番です』増える“クールまたぎ”放送で地上波ドラマ消滅の危機?
どうも、“X”という小さな芸能プロダクションでタレントのマネージャーをしている芸能吉之助と申します。
まだまだ先が見えない“withコロナ”の時代、エンタメ業界も否応なく大きな変化を迫られています。テレビの連続ドラマも、感染拡大防止のため撮影を休止・延期をせざるを得ないものが多く、春・夏放送予定だったドラマのスケジュールはかなり変則的に放送されました。
NHK大河ドラマ『麒麟がくる』(NHK総合、主演/長谷川博己)は約3カ月の休止期間を経て8月30日に放送再開。同じく放送を休止していた連続テレビ小説『エール』(NHK総合、主演/窪田正孝)は9月14日に放送再開されましたが、当初は全130回放送予定だったのを全120回にするという放送回数の見直しが行われました。
これまでの放送回がすべて視聴率20%超えという、この夏の連ドラの中ではダントツのヒットを記録している『半沢直樹』(TBS系、主演/堺雅人)も、本来なら4月19日スタート予定だったのが7月19日スタートにズレたもの。『半沢直樹』ではさらに、9月6日放送予定だった第8回を撮影遅延のために急きょ休止するという前代未聞の出来事もありました。代替番組として放送された、堺雅人さん、香川照之さんら主要キャスト・スタッフによるトーク番組『生放送!!半沢直樹の恩返し』がかなり充実の内容で大好評、ファンにはかえってうれしいサービス放送だったのですが……。
『北の国から』『スチュワーデス物語』…バブル以前は半年間放送のドラマも多かった
テレビドラマの放送スケジュールが変則的になったくらいでは視聴者も動じなくなってきていますが、そんななか聞こえてきたのが、「そもそもドラマの“クール”って必要なの? 意味がなくない?」という疑問の声です。
“クール”は、もともと「流れ」「期間」などを意味するフランス語“cours”を語源とした業界用語で、四半期(3カ月)をひとまとまりとする放送期間の単位を意味します。もともと日本のテレビ業界では、年度の上半期(4〜9月)と下半期(10〜3月)という半年単位での番組改編が慣例とされ、連続ドラマも『北の国から』(フジテレビ系、主演/田中邦衛、1981年10月〜1982年3月放送)や『スチュワーデス物語』(TBS系、主演/堀ちえみ、1983年10月〜1984年3月放送)のように半年間放送されるものが多かったんです。
それがだんだん、各局が人気俳優の奪い合いをするようになり、人気者のスケジュールを長期間押さえるのが難しくなってきた。視聴率重視のために、短いスパンでの番組へのテコ入れ・改編が求められるようになってきたのもあり、次第に現在の四半期=1クールでの番組改編が主流となってきたんですね。
クールがなくなると、タレントのスケジュール管理が面倒になってしまう?
ぼくら業界人からすると、「“クール”の区切りが本当に必要なのか?」という疑問については、「なくてもいいっちゃいいけど……やっぱりちょっと大変かも」という感じでしょうか。
というのも、テレビ業界はこれまで数十年、この“クール”を基準としたスケジュールで動いてきてますから、そこが流動的になってくると、ぼくら芸能プロダクション側としても、キャスティングやスケジュールの管理がとってもややこしくなってくるんです。たとえば、来年10月クールの連ドラに出演が決まったとしたら「9月〜12月中旬くらいまでは体が空かないな」というのが感覚としてすぐわかる。舞台なんかは2〜3年前から役者のスケジュールを押さえているのが当たり前なんですが、来年2月公演の舞台に出演するなら、「稽古を含めて1月からは舞台にかかりきりになるな、だったらその前の10月クールはドラマも入れられるかも」というふうに、スケジュールを組み立てているんです。
今回のように“クール”がズレてしまって、ドラマごとに撮影時期がバラバラになってしまうと、自分が担当している役者の今後のスケジュールを組みにくくなる……というデメリットは、ぼくらマネージャーとしては大きいですね。
作り手側から見ても、連続ドラマは3カ月程度、10〜11話くらいの長さで終わるのが作りやすいというのもあると思います。ドラマ開始からエピソードを積み上げて波を作って、盛り上げて終わるのにはそのくらいがちょうどいい。視聴者のことを考えても、ある程度スタート時期がクールとしてまとまっていたほうが、初回を見逃さずに見てもらえるという利点もあります。この春・夏ドラマについては「1話目を見逃してしまった」という声も多かった。1話目を見逃すと、「続きももういいや」ってなる人が多いですからね……。
増える“クール無視”の地上波ドラマ…近い将来、地上波ではドラマは放送されなくなる可能性も?
とはいえ、今挙げたような点は、「単にこれまでの慣習がそうだったから」というだけのこと。スケジュールに関しては、『アンナチュラル』(TBS系、主演/石原さとみ、2018年1〜3月放送)のように、役者のスケジュールに合わせて早撮りし、放送開始前にはすべて撮影が終わっているようなドラマももともとある。今回の新型コロナウイルス禍により、今後は早撮りの風潮が加速していくんじゃないでしょうか。感染防止に気を配りながらの撮影は何かと時間がかかるし、感染者が出て撮影がストップする可能性も多々ありますからね……。なるべく早めに撮り溜めしておかないと、いざという時にオンエアするものがなくなってしまう。
また最近では、クールに縛られないドラマも増えてきています。『あなたの番です』(日本テレビ系、主演/原田知世・田中圭、2019年4月〜9月放送)が日テレでは25年ぶりの2クール放送だったにもかかわらず、大ヒットした例もあるし、この秋もフジの人気ドラマの続編『監察医 朝顔』第2シーズン(フジテレビ系、主演/上野樹里、2020年11月2日スタート予定)が2クール放送される予定となっています。海外のドラマの放送回数は2クール以上の長さが主流で、Netflixで配信されている話題の韓国ドラマ『愛の不時着』も、1話が1時間10〜50分程度×全16話という大ボリューム。そういう、1クールでは描ききれない、よく練られたストーリーをじっくり観たいという視聴者層も増えています。
そもそも、いってしまえば、ドラマ自体がこれからもテレビで放送され続けるかもわからないですしね? 近い将来、すべてFODとかHuluのような配信サービスにとって変わられるかもしれない。
もともとテレビ業界自体に変革が起ころうとしていたところに、コロナの影響でそのスピードが爆発的に加速している……というのが、業界で働くぼくらの実感です。今まで通りにいかないことばかりで対応に追われまくっているし、大変なことも多いですが、その分、新しい可能性がある。そんな手応えを感じているところです。
(構成=白井月子)