『きのう何食べた?』はなぜLGBTを描けたか…芸能マネージャーが語る「差別とドラマ」
どうも、“X”という小さな芸能プロダクションでタレントのマネージャーをしている芸能吉之助と申します。
【前回】、史上初の10連休となった今年のGWが連ドラの視聴率にも大きな影響を及ぼしたというお話をしましたが、今回は、その逆風にも負けず高評価を得た人気ドラマについて。話題になったドラマや、ぼくが個人的に気になったドラマなどを、芸能マネ的ウラ話を交えておさらいしていきたいと思います。
今クールで話題になったといえばドラマといえば、まずはやっぱり西島秀俊さん&内野聖陽さんがゲイカップルを演じた『きのう何食べた?』(テレビ東京系)ですよね。原作は、『大奥』などでも知られるよしながふみさんによる2007年連載開始のマンガ作品で、この5月に講談社漫画賞も受賞した人気作品。ドラマ化するにあたっては、各局による相当な放映権の争奪戦があったみたいですよ。
ぼくもずっと昔から原作マンガを読んでいるんですが、原作ファンから見ても、今回のキャスティングは本当に素晴らしかった〜! 西島秀俊さん、内野聖陽さんという主演のおふたりは言わずもがな、ジルベール(航)役=磯村勇斗くんというキャスティングがもう最高! ジルベールって原作でも人気の高いキャラだから、誰が演るのかみんな注目していたと思うんですけど、磯村くんがジルベールに扮しているビジュアルを見た瞬間、「あっ! ジルベールじゃん!」って納得させられちゃった(笑)。生意気でちょっとだらしない感じで……という雰囲気をよくつかんでますよね。西島さん、内野さん、山本耕史さん(小日向役)という錚々たるベテラン俳優たちとの共演シーンでも堂々とした演技で、感心しました。
第8話に登場した熟年ゲイカップルを演じていた菅原大吉さん&正名僕蔵さんも、見事なキャスティングですよね。やっぱりゲイという役だから、キャスティングが難しいし、俳優のほうもオファーがきたら悩むと思うんですよ。ちゃんと演じられるかどうか。やっぱりセンシティブな役どころだし、昨今、LGBT問題絡みではメディアがバッシングされることもありますし……。この方々をキャスティングした制作陣も素晴らしいし、それを受けて見事な演技を見せてくれた役者さんたちも本当に素晴らしい。
原作のお話がもともとすごくよくできているので、それを忠実に再現した安達奈緒子さんの脚本もさすがです。品とセンスが感じられる画のトーンも心地よく、脚本・役者・演出が最高にうまくハマった、いいドラマでした。
地上波ドラマでも性的マイノリティ問題が許容される時代性
ちなみに、このクールは『きのう何食べた?』をはじめ、『俺のスカート、どこ行った?』(日本テレビ系、主演・古田新太)、『腐女子、うっかりゲイに告る。』(NHK総合、主演・金子大地)と、LGBTを扱ったドラマが多かったですね。ちょうど1年前の2018年4月クールで大ヒットとなった田中圭主演の『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)の二匹目のドジョウを狙っている……なんて言っている人も多いけど、それとはまったく関係なく、ずっと前から企画していたドラマみたいですよ。『腐女子、うっかり〜』を企画したNHKのプロデューサーは、記者会見で「最後にこれだけ言いたい」と前置きして、“真剣にこういうテーマに取り組みたいと思って、脚本の三浦直之さんと作ったドラマ。「『おっさんずラブ』がヒットしたから」みたいなことは書かないでください”という趣旨のことを語っていたらしい(笑)。
『きのう何食べた?』も、原作のよしながふみさんが「この映像化の企画を何年も前から持ち込んで下さった(以下略)」(講談社漫画賞受賞時のコメント)とお話しされていたように、当然ずっと前から進んでた企画のようですね。でも、大きな文脈で見れば、今の時代の流れが、LGBTの方々など性的マイノリティに対してもきちんと許容していく空気になってきているってことが、最近こういうドラマが多く世に出てきていることの要因なのでしょうね。
本質的な部分でいえば、本来マイノリティを描くということは、葛藤が多い=ドラマになりやすい、ということでもあります。実際海外ドラマではずっと、人種差別をテーマにした作品なんか非常に多いですよね。しかし日本では、ドラマで差別やLGBTなどをテーマに扱うって、どうしても描きにくい空気がある。性的マイノリティ問題に限らず、在日朝鮮人問題、被差別部落問題、沖縄問題、アイヌ問題……等々を、広告で成り立っている地上波テレビで、人気商売の若手役者さんを使ってプライムタイムでドラマ放送するって……やっぱりハードルは非常に高いというのが現実でしょう。
例えば、2018年に吉岡里帆ちゃん主演で放送された『健康で文化的な最低限度の生活』(フジテレビ系)は、生活保護・貧困を扱ったドラマでしたが、「ドラマの内容に深みがない」と批判の声も多かった。でも、地上波ドラマでは、あれくらいがきっと限界だったんだろうな、あれ以上の描写は無理だったんだろうな……と思います。
それが、『おっさんずラブ』の大ヒットをきっかけに、少なくとも性的マイノリティの問題に関しては、いい意味でみんなオープンになってきたというか、テレビの映像表現でテーマ化しても問題ないだろう、という空気にはなってきたような気がします。
芸能プロとしてのスターダストの“強さ”
その他では、【前回】でも少し触れましたが、数字が安定していたのが、“平成最後の月9”となった『ラジエーションハウス〜放射線科の診断レポート〜』(フジテレビ系)。やっぱり、主演の窪田正孝くんがすごく上手いんですよね。脇にも演技派の役者が揃っていて、見応えがありました。
窪田くんが所属しているのは大手芸能事務所のスターダストプロモーション。今クールの『インハンド』(TBS系、主演・山下智久)で、山Pと『プロポーズ大作戦』(2007年、フジテレビ系)以来11年ぶりの共演が話題となった濱田岳くん、『おっさんずラブ』で再ブレイクした林遣都くん、今やすっかり演技派としての評価が定着した柳楽優弥くんなど、たくさんの人気俳優が所属しています。『きのう何食べた?』で注目されている内野聖陽さんも、スターダストですね。
『ラジエーションハウス〜』の窪田くんを見ていて、改めて「スターダスト恐るべし!」と感じ入りました。本当にいい役者が多く所属しているんですよね〜。超美形ではないんだけど、独特の色気があって、ただ上手いだけじゃない魅力的なお芝居ができる男の子が多い。スターダストは、そういう子を探し出して、育てるのが得意なんですよね。いやあ、僕も芸能プロの代表として見習いたいものです。
スタッフ全員の名前を記憶する吉高由里子
【前回】、視聴率やドラマの評価などいろいろなものを背負う覚悟で、主演の役者はドラマに取り組んでいるのだ……というお話をしました。視聴率やネットでの評価って、もちろん撮影中からどんどん役者たちの耳にも入ってくるんです。
高視聴率のときは現場の空気もとてもいい雰囲気になるのですが、これまで僕が現場を見てきて思ったのは、低視聴率のときにこそ、主演役者の座長としての真価が問われるということ。視聴率が悪いからといって、主演が落ち込んでたりピリピリしたりしていたら、「こんなヤツとはもう仕事したくないな……」と思われちゃう。現場を鼓舞して、みんなを引っ張っていける役者じゃないと、主役に起用され続けることはできないんです。何度も主役を張っている人って、みんなそういう人なんですよ。
今クール、『緊急取調室 シーズン3』(テレビ朝日系)の視聴率が絶好調の天海祐希さんや、『わたし、定時で帰ります。』(TBS系)の吉高由里子ちゃんなんかは、まさにそんな感じです。吉高ちゃんは空気を良くするのが本当に上手らしく、インタビュー記事で読みましたが、あの子ってスタッフ全員の名前を憶えているそうなんですよ。監督やプロデューサーだけじゃなく、照明さんの助手みたいな子まで全部覚えていて、しっかり名前で呼びかけるとか。そんなことされたら、現場のスタッフはやっぱりテンション上がるじゃないですか。「この人のために頑張ろう」と思える。男性だと、岡田准一くんや木村拓哉さんなんかもそうですね。
そういうのって、もちろんマネージャーが教育する部分もあるけど、現場で主演の先輩役者さん方がやっているのを見て覚えていくもの。チョイ役の頃から、「私が主演になったときにはああいうふうに振る舞わないといけないな」とちゃんと学べる人、そして自分のことだけでいっぱいいっぱいにならず、それを実行できる人……連ドラの顔ぶれを見ると、やっぱり、そういうふうにスタッフとコミュニケーションをしっかり取れる人が生き残っているなと感じます。
そのような現場の雰囲気を想像しつつ、ドラマを見ると、また味わい深いものがあると思いますよ。
(構成=白井月子)