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吉田潮「だからテレビはやめられない」

『ひよっこ』、一点の汚れもない「純粋さ」押し付けに辟易…悪を失った朝ドラがキツイ

文=吉田潮/ライター・イラストレーター
『ひよっこ』、一点の汚れもない「純粋さ」押し付けに辟易…悪を失った朝ドラがキツイの画像1「Thinkstock」より

 この1年、NHKの朝ドラから離れてしまった。朝8時に起きる習慣がなくなってしまった。『あさが来た』まではちゃんと起きていたのに……。『とと姉ちゃん』のほんわかご都合主義には汚れた心がついていけず、『べっぴんさん』のお嬢様たちの花畑&ノブレス・オブリージュに辟易し、途中で視聴を断念してしまった。今度こそは、と思った『ひよっこ』。

 北関東~東北出身のおぼこい娘たちが、清々しくほがらかに、そして親や家族のために身を粉にして働く。オリンピック目前の浮かれた東京で、乙女たちはそれぞれの思いを抱えながら……かぁ。女性たちに課されて押し付けられた「純粋」が、正直、キツイ。

 生き馬の目を抜く東京のえげつなさ、清濁併せ呑む一方で弱者を切り捨ててきた東京のあざとさ。きっとこれから描かれるんだろうなと大いに期待はしているのだが、まだ見えてこない。

 善人だらけの東京。田舎者に優しい洋食屋、仕事ができない女工に優しいトランジスタラジオ工場、同郷のよしみというだけで失踪人を探してくれる警察官。朗らかにロシア民謡を歌い、少ない給料のほとんど全部を家族に仕送りする乙女たち。チンピラだのコソ泥だのは登場しても、主な登場人物たちと拮抗する「悪」は不在。ナレーションも美しく朗らかで澄んだ声の増田明美。一点の汚れも曇りもなきまま、現在に至る。

 朝ドラはいつからこんなに清純派になってしまったのか。『とと姉ちゃん』あたりから大人の狡猾さ、生臭さ、世間の冷たさ、社会の不条理。そういったものが徹底的に排除されているような気もする。性根が腐っている私からすれば、清すぎる展開がまぶしすぎるのだ。このモヤモヤした感じ、今後の展開できっと解消させてくれるに違いない。新キャストとして投入されるシシド・カフカあたりが、たぶんスカッとさせてくれるに違いない。
 
 実は、別口でモヤモヤを解消しているので、そんなにストレスはたまっていない。テレビ朝日、昼のシルバータイムドラマ『やすらぎの郷』が毎日放送されているおかげである。倉本聰の描く後期高齢者像が、まあ人間くさくて、逆の意味で清々しいのだ。「清々しい」という言葉の汎用性をフル活用してるな。セットで考えれば、『ひよっこ』で汚れなき無垢な若き人々を、「やすらぎの郷」で生き延びた結果のこうばしい人々を観察するという楽しみ方もできるわけで。『やすらぎの郷』のとてつもないおもしろさはまた次回に。
(文=吉田潮/ライター・イラストレーター)

吉田潮

吉田潮

ライター・イラストレーター。法政大学卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。「週刊新潮」(新潮社)で「TVふうーん録」を連載中。東京新聞でコラム「風向計」執筆。著書に『幸せな離婚』(生活文化出版)、『TV大人の視聴』(講談社)などがある。

Twitter:@yoshidaushio

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