35年以上の長きにわたって描かれ続けている『機動戦士ガンダム』シリーズではあるが、その中で俗に“ファーストガンダム”とも呼ばれる記念すべきシリーズ第1作に至るまでのあらましを描く『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』シリーズが好評だ。
原作は“ファーストガンダム”の作画監督などを務めた安彦良和が描いたコミックで、映像化にあたっては安彦自身が総監督を務めている。彼としては久々の『ガンダム』シリーズへの参加であり、そのことだけでもファンを大いに喜ばせてくれた。
もともとはODAとして企画されたものだが、『機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)』全7章同様に期間限定のイベント上映がなされることとなり、映画館の大画面にかけても何ら遜色のない画のハイ・クオリティさも評判となっている。
さて、その『THE ORIGIN』の内容だが、まずは“ファーストガンダム”の主人公アムロ・レイの宿敵となるシャア・アズナブルがいかに誕生したか、またそれと同時にスペース・コロニー国家・ジオン公国の中でザビ家がいかに台頭していき、ついには地球連邦政府との“一年戦争”、つまり“ファーストガンダム”で描かれている世界へ突入していったかが、“シャア・セイラ編”全4章として描かれた。
そして今回から“ルウム戦役編”全2章(の予定)の開幕となる。一年戦争は宇宙世紀0079年1月3日午前7時20分、ジオン公国が地球連邦政府からの独立を果たすべく宣戦布告したことによって開始されているが、そこから“ファーストガンダム”の始まりでもある同年9月までの間にいくつか両軍の間で激戦がなされており、その最たるものがルウム戦役なのだ。
もっとも今回の『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 激突 ルウム会戦』では、1月15~16日に繰り広げられたルウム戦役に突入するまでの“一週間戦争”を主体に描かれる。
その中でも特に圧巻なのは1月10日、ジオン軍がサイド1&2&4のスペースコロニーを急襲して住民を毒ガスで虐殺し、さらにはサイド2のコロニー1基を地球に落下させるという、まさに鬼畜のごとき“ブリティッシュ作戦”の模様はドラマ中盤の山でありつつ、非常に静謐な佇まいで描出されているのが意表をついていて面白い(なお、この一週間戦争で全人類110億人のおよそ半数55億人が死亡したとされている)。
また“シャア・セイラ編”に比べると、ジオン軍内部のザビ家の確執や、それに翻弄されていくランバ・ラル、そして着実に戦績を挙げていくシャア・アズナブルといった緊張感あふれる群集劇的要素が一気に高まっているのもいい。
もっとも、今回はアムロをはじめ、“ファーストガンダム”に登場する少年少女たちの日常も描かれているが、さすがにまだ本格的に戦いに巻き込まれていない彼らの言動の数々は繊細ではあれ、さほどの面白みをもたらしてくれないのは致し方ないところ。父親が連邦軍開発者であることから大人たちにエコヒイキされるアムロと、不良少年気取りのカイ・シデンらとの確執も、正直おまけのようなものにしか感じられなかった。
やはり『THE ORIGIN』シリーズの面白さは宇宙世紀という架空の、そして激動の歴史を主にジオン側から振り返っていくところにあり、逆に地球側のあらましはピカレスク・ロマン的な情緒が決定的に欠けている分、積極的に見据えていく気にならないのだ。