『ドラゴン桜』平手友梨奈の圧倒的存在感とは…TBS福澤監督が魅せる『半沢直樹』的快楽
どうも、“X”という小さな芸能プロダクションでタレントのマネージャーをしている芸能吉之助と申します。
今期の連続ドラマは豊作ですね。
松重豊さん、國村隼さん、渡辺いっけいさん、古舘寛治さんという“人気おじさん俳優”が勢ぞろいしている松坂桃李くん主演のドラマ『今ここにある危機とぼくの好感度について』(NHK総合)、『コンフィデンスマンJP』を手がけた田中亮さんが演出を担当している『イチケイのカラス』(フジテレビ系)、 今年3月に20年間所属していた事務所「パパドゥ」から退所した永山瑛太くんが独立してから初のドラマ出演となる『リコカツ』(TBS系)などなど、おもしろい作品が目白押しです。
なかでも注目度が高いのが、『ドラゴン桜』(TBS系)。2005年に放送された前作には、当時まだブレイク前だった長澤まさみさんや新垣結衣さん、山下智久さんなどが出演しており、今作にも引き続き登場するのではと放送前から話題になっていましたが、続投は長澤まさみさんのみ。しかし第1話で、前作に生徒役で出演していた紗栄子さんがサプライズ出演し、視聴者は大いにわいていましたね。平均視聴率も、第1話から5話まで12~14%台(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)という高水準をキープしており、絶好調です。
『ドラゴン桜』は『半沢直樹』のTBS福澤氏、脚本には元芸人のオークラ、そして圧倒的存在感の平手友梨奈
『ドラゴン桜』は、制作費が抑え気味になっている昨今のドラマ業界においてはかなり大がかりなセットを使い、さらにキャストによる番宣のためのバラエティ出演も他のドラマよりもかなりの本数をこなしています。しかも、『半沢直樹』(2013年、2020年)を手がけたTBSの福澤克雄さんがチーフ演出を担当しており、脚本チームには元芸人でおぎやはぎやバナナマンのラジオなどを担当している構成作家のオークラさんもいるというのがまたおもしろいところ。オークラさんはバカリズムさんが脚本を手がけたドラマ『素敵な選TAXI』(フジテレビ系)や『黒い十人の女』(読売テレビ)に脚本補助として参加しており、今後は一時のおちまさとさんや鈴木おさむさんのような売れっ子脚本家になっていきそうな気配がありますね。
こうした力の入れようから、「何がなんでも絶対にヒットさせたい」というTBSの意気込みが伝わってくる『ドラゴン桜』ですが、より注目を集めるために、長澤まさみさんと紗栄子さん以外の前作のキャスト陣にも当然オファーしたのだと思います。けど、山下智久くんは昨年ジャニーズ事務所を辞めたばかりということもあって、難しいでしょう。
ただ、新垣結衣さんは、彼女の代表作である『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)の演出を務めた石井康晴さんが今回の演出チームにいることもあって、なんらかの形でサプライズ出演するという可能性もあるかもしれません。とかいっているうちに星野源さんとのご結婚を発表されたので(おめでとうございます!)、やはりそれはないかな……(笑)。
前作キャストの出演もさることながら、若手のキャスティングにこだわっているところも『ドラゴン桜』の見どころでしょう。生徒役のKing & Prince・髙橋海人くん、元欅坂46の平手友梨奈さん、元“こども店長”で研音の加藤清史郎くん、レプロエンタテインメントの南沙良さん、フォスターの鈴鹿央士くん、アミューズの細田佳央太くん、テンカラットの志田彩良さんと、各事務所のイチオシの若手がラインナップされていますが、なかでも平手友梨奈さんの圧倒的な存在感が目立っていますね。
平手さんはお芝居が上手い・下手というよりも、独特の存在感だけで作品全体を引っ張っていくことができる貴重な存在。彼女は欅坂46のアイドル時代、『夏の全国アリーナツアー2018』の幕張メッセ公演で、「ガラスを割れ!」という曲のパフォーマンス中に花道に飛び出して気迫に満ちたダンスやヘッドバンギングを披露し、その後ステージから落下……という“事件”がファンの間では伝説化しているそうですが、演技においても全身全霊で魂をぶつけてくるタイプなのでしょう。ある意味では映画向きの演技ともいえますが、それがドラマで観られるのは貴重ですね。
松たか子主演『大豆田とわ子と三人の元夫』、岡田将生、角田晃広、松田龍平がラップするクリエイティビティ
そうそう、松たか子さん主演の『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系)もすごくいいドラマなんですよ。このドラマのプロデューサーの佐野亜裕美さんは、TBSから関西テレビに移ったという異色の経歴の持ち主で、脚本担当の坂本裕二さんとは2017年の松たか子さんの主演ドラマ『カルテット』(TBS系)でもタッグを組んでいるんです。
『カルテット』もそうでしたが、『大豆田とわ子と三人の元夫』でも、佐野さんと坂本さんコンビによるマニアックな脚本と、CM出身の中江和仁さんのセンスのよい演出が密かに話題になっています。例えば、ドラマの主題歌は松たか子さんがメインボーカル、ヒップホップ界で著名なプロデューサー・STUTSさんがトラック制作とプロデュースを担い、松さん演じるとわ子の3人の元夫役の岡田将生さん、角田晃広さん、松田龍平さんがラップを披露するんですが、加えて放送回ごとにゲストのラッパーを迎えており、毎回主題歌が変わる……というなんとも斬新かつオシャレな試み。
これは、プロデューサーの佐野さんが、古巣であるTBSで『水曜日のダウンタウン』などを担当しているディレクター・藤井健太郎さんに相談した結果、もともとヒップホップ界隈に幅広い人脈を持っている藤井さんが主題歌全体のプロデュースを手がけるという形になったためだとか。テレビ局の枠を飛び越えておもしろいものを作ろうというクリエイティブ精神に賛同したキャスティングといえるでしょう。ただ、マニアックな路線を攻めすぎたせいか、第5話までの平均視聴率は5~7%台。作り手のこだわりが感じられるおもしろい作品ですが、一般ウケするかどうかはまた別の話なんですよね……。
『おちょやん』が奮わなかった要因は、“イケメンロス”が足りなかったからではないか
5月14日に最終回を迎えたNHK連続テレビ小説『おちょやん』も平均視聴率17.4%と、20%台も珍しくない朝ドラとしては数字が奮わなかったと指摘されています。とはいえ、ヒロイン・千代役の杉咲花さんの演技は本当に素晴らしかった! 関西弁も完璧だし、元夫役の成田凌くんほか同作に出演していたほかの役者さんと比べても、ちょっとなんかもうひとり図抜けた上手さでしたね。NHK朝ドラの主役があそこまで上手いなんて、逆にレアなことというか……(笑)。
しかし彼女の演技がこれほど完璧で、しかも随所に“泣かせどころ”のある感動的なストーリーだったにもかかわらず、数字はついてこなかった。これはなぜなのか……。
私の考えるその“解”、それは「ロスがなかったから」というものです。
朝ドラは週5回の放送で、なおかつ放送期間が半年という長丁場のドラマですから、ヒロインが新しいキャラクターとの出会いや別れを経験する……という流れを何度か繰り返していきますよね。その繰り返しのなかでヒロインが人生経験を重ね、そして成長していく……というのが、朝ドラの基本的なパターンなわけです。
バリエーションはありつつも、そういうある意味単調である程度先の読めるストーリー展開の朝ドラにとって大事なことといえば、これはやはり「ロス」。ヒロインと一時期は濃密な関係(それは別に恋愛関係でなくても、友情関係でも反目し合う関係でもなんでもよいのですが)を築き、視聴者にとって大切な存在となった登場人物が、ストーリーの都合上、いなくなってしまう。それは別れかもしれないし、単純に主人公のいる場所が変わっただけのことかもしれないし、あるいは死かもしれません。
そうするとそのとき、視聴者の心にぽっかり穴があいてしまったような感覚が生じ、「さみしい!」という絶望的な感情と「また会いたい」という渇望の気持ちがわく。これがロスであり、視聴者に対してこの“ロス状態”を上手に作ってあげることが、朝ドラを最後まで飽きさせないための重要なポイントになってくるんです。
例えば、2015年の『あさが来た』ではディーン・フジオカさん、2017年の『ひよっこ』では竹内涼真さん、2019年の『スカーレット』では松下洸平さんが脇役として登場し、出演回の終了後にはSNSを中心に「おディーンさまロス」などの“ロスバズリ”現象が起こっていましたよね。
しかし『おちょやん』ではどうだったでしょうか。確かに泣かせるストーリーではありましたが、わかりやすい「〇〇ロス」といったようなシーンは少なかったように思います。あるいは、ロス現象を巻き起こすほどの“愛されキャラ”がいなかったといういい方も可能かもしれません。まああえていえば、トータス松本さんが演じていた千代の父親・テルヲでしょうかね……。
確かにテルヲが留置場で亡くなるというシーンは、千代とのこれまでの関係性もあって、非常に悲しくせつないものでした。しかしテルヲは、幼少時の千代を売っぱらったり、大人になった千代が必死に働いてためたお金を使い込んだりするという最低の父親でした。それでは視聴者も、ちょっとロスの感情が生まれるほどの感情移入はできないですよね。(笑)。
朝ドラを盛り上げるためにはやはり、この枠のメイン視聴者層といわれている50~60代の女性をわかりやすくぐっと惹きつけるようなイケメンキャラという存在、そしてそのイケメンの“ロス現象”は、必須なのかもしれませんね。
(構成=田口るい)