鈴木亮平が主演を務めるNHK大河ドラマ『西郷どん』の第20回が27日に放送され、平均視聴率は前回より1.5ポイント減の12.2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)だったことがわかった。
今回は、とぅま改め愛加那(二階堂ふみ)と島で穏やかに暮らす西郷吉之助(鈴木)からいったん離れ、吉之助のいない薩摩の様子が描かれた。権力を振るっていた島津斉興(鹿賀丈史)が死に、代わって藩主の父である久光(青木崇高)が実権を握ることになった。大久保正助(瑛太)は久光に取り入って信頼を得ていくが、昔からの仲間たちは正助のやり方が気に入らず、脱藩して事を起こそうと画策していた。
そんな折、大老の井伊直弼(佐野史郎)が桜田門外で浪人たちに襲撃され命を落とす事件が発生する。襲った浪人のなかには、薩摩を脱藩した者も含まれていた。吉之助は正助から届いた手紙でそれらの出来事を知り、遠く海の向こうを見つめた――という展開だった。
この回に限って言えば、正助が実質的な主役となっていたが、吉之助が幽閉されている間に薩摩や江戸で大きく物事が動いたのは史実であり、構成としては良かった。愛する妻とイチャイチャしながら暮らす吉之助の姿と、常に眉間にしわを寄せた小難しい顔で何事かを考えている正助とがはっきり対比になっていたのも良い。
吉之助は、薩摩には帰らず島でずっと暮らすと言い、そのつもりで愛加那を妻に迎えた。だが、薩摩と日本の行く末について考えるのをきれいさっぱり辞めてしまったはずがない。いつも正助から届く手紙で薩摩の様子を知り、「今の自分にはかかわりのないことだ」と必死に思い込もうとしていたような気がする。井伊大老の死を伝える手紙を読んだ時の複雑な表情に、それが表れていたように見えた。
次回はいよいよ西郷吉之助が藩の召還命令に応じ、妻を島に置いて薩摩に帰還することになるようだ。吉之助は現地妻としてではなく正式に妻として愛加那を迎え、ずっと島で暮らすと宣言しただけに、結果的に約束を破ってしまうことになる。この時の吉之助の感情や行動をどう解釈するのかは難しい面もあるとは思うが、評判の良かった「島編」の締めくくりになるだけに、視聴者を泣かせるくらい美しい話にまとめてほしい。
一方で、薩摩の描き方には相変わらず雑さが目立つ。たとえば、「精忠組」誕生の場面だ。久光が藩士たちの前で藩主の書状を読み上げ、最後に「よかか、精忠組!」と呼びかけるのだが、藩士たちは「精忠組じゃ」と口々に言い合うばかりで、藩の実質トップから名前を賜ったという興奮や喜びがまったく表現されていない。そもそも精忠組がどんな志の集まりなのかも不明なのに、いきなり「皆さんご存じの」みたいなノリで「精忠組」という名前だけを出されても、視聴者もポカーンとしてしまうのではないか。
また、そんな「精忠組」の一部の者たちが脱藩にこだわる理由もよくわからない。将来に何のビジョンもないままに、とにかく何か行動しなくてはならない、というようにしか見えないのだ。これまでドラマのなかで彼らが天下国家について論じあっていたという場面がほとんどないため、余計にそう見えてしまう。井伊大老を襲撃した薩摩脱藩浪士にしてもそうだが、どんな側にも彼らなりの大義があったことを少しでも視聴者に提示してくれないと、すべてが単なる出来事として流れていってしまい、群像劇としての深みが生まれない。
今後は、吉之助が薩摩藩内で他者と意見を対立させる場面が増えてくるはずだ。吉之助の側だけではなく、反対の立場にも一理あることを示すような脚本を期待したい。
(文=吉川織部/ドラマウォッチャー)