連続テレビドラマ『黄昏流星群』(フジテレビ系)の第5話が8日に放送され、平均視聴率は前回から0.2ポイント増の6.7%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)だった。このドラマは、融資先へ出向になった元銀行員・瀧沢完治(佐々木蔵之介)と、母親を介護しながら食堂で働く目黒栞(黒木瞳)を中心に、人生や恋に葛藤する男女を描く作品だ。
第4話は、ついに完治と栞がホテルに入るものの、エレベーターで娘の美咲(石川恋)と鉢合わせしてしまうという衝撃のラストだったため、この後の展開が注目されていた。しかも、娘の隣にいたのは婚約者の日野春輝(藤井流星/ジャニーズWEST)ではなく、かなり年配の男性(高田純次)だった。
第5話はこの続きから始まったが、完治は美咲のことで頭がいっぱいになってしまい、結局、栞と結ばれることはなかった。翌日、美咲は完治に「お互い誰にも言わず、干渉しないように
」と告げる。
この後、完治と妻の真璃子(中山美穂)、そして美咲は、春輝を含めた4人で温泉旅行に出かけるが、ここで物事が大きく展開していく。真璃子は夫の携帯にかかってきた栞からの電話に出てしまい、浮気相手からだとの疑いを深める。美咲は旅行中も絶えず不倫相手と連絡を取り合い、心配した完治と言い争いになってしまう。春輝はその様子を物陰から目撃してしまい、美咲の真実を知ってしまう。それが引き金となったのか、春輝は隙を見て婚約者の母親である真璃子にキスをした。
もはや誰ひとりまともな人間がおらず、ぐっちゃぐちゃである。だが、「さすがにそこまではないだろう」というラインを軽々と越えてくるのが、このドラマの特徴だ。「なんだそれ」とツッコミを入れながら見る分にはとても楽しいし、むしろ「もっとやれ」という気にさえなる。視聴率こそ低いが、ある意味で視聴者をとても楽しませてくれる“いいドラマ”だ。
中山美穂の素人以下みたいなクソ演技も、そういう意味では笑えて楽しい。特に今回は、春輝の前で急に両手をぶんぶん動かしてホタルをつかまえる仕草をした場面が視聴者に大ウケ。「何あのパントマイム」「盆踊り?」「幻覚でも見たのかな」「ぶりっこおばさん怖い」などと、ネットが沸いた。つまらない上に視聴者に毎回ストレスを与える『獣になれない私たち』(日本テレビ系)に、「もっと『黄昏流星群』を見ならえ」と言いたいくらいだ。
それはさておき、栞が完治の携帯に電話したのは、施設に入っていた栞の母が死んだと知らせるためだった。知らせるためだったというより、孤独や不安に押しつぶされそうになって、完治の声を聞きたくなったというのが正しいのだろう。このあたり、黒木瞳はさすがである。葬儀での憔悴しきった様子もさることながら、葬儀を終えて一人で自宅に帰り、何気なく台所に立ったものの、ほどなくして泣き崩れる演技は圧巻だった。ネタドラマとわかってはいても、この場面だけは思わず感動したし、栞の境遇に同情して涙がこぼれそうになった。ネット上でも、この場面を絶賛する視聴者の声は少なくない。「黒木瞳本人はそんなに好きではないが、演技力は認めざるを得ない」との声も多い。筆者もその一人だ。
こうして考えると、このドラマは案外ぜいたくなのかもしれない。あり得ないほどのバカげた展開と、何十年たってもアイドルから抜け出せない中山美穂の演技を笑い飛ばしつつ、その世界観をひとりで覆すほどの力を持った黒木瞳の重厚な演技を同時に楽しむことができるからだ。チグハグだといえばそうなのかもしれないが、良いほうにとらえれば「メリハリが半端ない」ともいえる。なんであれ、この先も楽しめることだけは間違いなさそうなので、引き続き密かに推していきたい。
(文=吉川織部/ドラマウォッチャー)