東京五輪・パラリンピックをめぐる汚職事件で、出版大手「KADOKAWA」の元専務らが新たに贈賄容疑で逮捕された。これをきっかけとして、同社の夏野剛社長の「アホな国民感情」発言が改めてクローズアップされている。
今月3日、大会スポンサーだったKADOKAWAが大会組織委員会の元理事・高橋治之容疑者に知人のコンサルタント会社を通じ、2019年から昨年までに約7000万円を振り込んでいたと報じられた。
KADOKAWAの角川歴彦会長は5日に各メディアの取材に応じ、コンサル会社への正当な報酬としての送金を認めた一方で「(高橋容疑者に)お金は渡っていないと思う。弁護士のチェックも受けた契約で問題ない」「AOKIさんの事件とウチは違うと思っていたので戸惑っている」「僕は社員を信じますよ」と賄賂疑惑を否定した。
ところが、翌6日に東京地検特捜部は同社の元専務取締役の芳原世幸、東京五輪・パラの関連事業で担当室長だった馬庭教二の両容疑者を贈賄容疑で逮捕。さらに、KADOKAWA本社や芳原容疑者らの自宅だけでなく、角川会長の自宅にまで家宅捜索が入った。
これを受けて、KADOKAWAは前日の角川会長の否定から一転して「本件を厳粛に受け止め、地検の要請に誠意をもって対応するなど、引き続き捜査に全面的に協力する。関係者の皆様に多大なご心配とご迷惑をおかけし、深くおわび申し上げる」と謝罪コメントを発表する事態となった。
複数の報道などを総合すると、同社は東京大会のスポンサーになるため、高橋容疑者の知人でコンサルタント会社社長の深見和政容疑者(6日に受託収賄容疑で逮捕)に相談。高橋容疑者は大会のスポンサー募集を担っていた大手広告代理店「電通」に対し、出版部門のスポンサー枠を新設するよう提案した上でKADOKAWAを選ぶように働きかけた疑いがある。実際、KADOKAWAは大会スポンサーに選ばれて公式ガイドブックを発売した。
今回、KADOKAWA側で逮捕された芳原氏はリクルートで車情報誌「カーセンサー」の創刊に携わり、海外旅行情報誌「エイビーロード」や結婚情報誌「ゼクシィ」なども手がけた敏腕で知られ、業界内に衝撃が広がっている。また、出版界では「KADOKAWA本社と角川会長の自宅に家宅捜索」という事実も驚きをもって受け止められている。
そんな中、KADOKAWA現社長である夏野剛氏の過去の問題発言に再び注目が集まっている。
大問題発言に「そういうことか」の声も
昨年7月、夏野氏はABEMAのニュース番組『ABEMA Prime』に出演。あるコメンテーターが「子どもの運動会や発表会が無観客で行われるのに五輪の会場に観客を入れたら不公平感がある」と発言すると、夏野氏は以下のように反論した。
「そんなクソなね、ピアノの発表会なんか、どうでもいいでしょう、オリンピックに比べれば。それを一緒にするアホな国民感情に今年は選挙があるから乗らざるを得ないんですよ」
「Jリーグだってプロ野球だって(観客を)入れているんだから。オリンピックを無観客にしなければいけないのは、やっぱり選挙があるから。国民感情を刺激するのはよくないという判断。そのうち誰かが金メダルを取ったら雰囲気変わると思いますよ」
この時は「クソなピアノの発表会」「アホな国民感情」といった過激なフレーズが大炎上し、夏野氏は謝罪する事態になった。夏野氏は東京オリンピック組織委員会の参与を務めていたため、当時から「利害関係があっての発言では」といった推測があった。
現在、KADOKAWAが大会スポンサーをめぐる汚職事件の渦中にあることを考えると、夏野氏の発言はもっと深い意味を帯びてくるようにも思える。
これにネット上では「夏野さんは頭いいのに何でこんなこと言ったんだろうと思ったけど……」「疑惑が事実だったら、異常に五輪に肩入れしていたのも理解できる」「夏野さんのあの発言、そういうことか……と思ってしまった」「いくら大会社であっても、7000万円もの大金を会長も社長も知らないところで動かせるものなんですかね?」といった声が飛び交っている。
また、ネット上では贈賄が疑われるやり取りがあったとみられる当時に同社の社長を務めていたドワンゴ創業者の川上量生氏が騒動に関わっているかどうかにも注目が集まっている。
いずれにしても、五輪をめぐる一連の汚職事件への世間の憤りは「アホな国民感情」で済ませられるものではなく、徹底した真相究明を期待したい。