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碓井広義「ひとことでは言えない」(2月26日)

『ミタ』『最高の離婚』『半沢直樹』…今期ドラマは、各局ヒット作スタッフ再結集での勝負

文=碓井広義/上智大学文学部新聞学科教授

 1月に始まった今期の連続ドラマも終盤に入った。前期(昨年10月~12月)の『ドクターX~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日系)のようなメガヒットはないが、大人の男性が今から“参戦”しても楽しめるドラマが放送されている。注目したいのは、これまで確かな実績を残してきた、実力派制作チームによる3本だ。

『○○妻』

 まずは、『家政婦のミタ』(日本テレビ系)の脚本家・遊川和彦氏とスタッフが再結集した『○○妻』(同)を挙げたい。

 ニュースキャスターである久保田正純(東山紀之)の妻・ひかり(柴咲コウ)は、夫を支えることにかけては完璧だ。家事全般はもちろん、服装のコーディネートから番組の感想まで手を抜かない。誰よりも尊敬する夫に尽くしたいからだ。

 しかし、2人は正式な夫婦ではない。入籍の形をとらない「契約夫婦」なのだ。正純は普通の結婚を希望しているが、ひかりは断固拒否する。では、なぜ契約なのか。その裏には謎めいた過去があり、『家政婦のミタ』同様、ヒロインの秘密が徐々に明かされるプロセスがスリリングだ。

 ただ、それ以上に興味深いのは、契約妻という設定を通じて「夫婦とは何か」「結婚とは何か」を問いかけていることだ。遊川氏の脚本、連ドラ初主演の柴咲、そして華のある東山の好演に支えられ、“異色の社会派ドラマ”と呼べる1本になっている。

 それにしても、人を食ったタイトルである。「美人妻」や「昼顔妻」などを連想させながら、フタを開けてみれば「契約妻」だった。とはいえ、あえて『○○妻』としたのは、「契約」だけではない妻の真相が隠されていたからだ。

 夫婦は、一種の鏡のようなものかもしれない。相手の中に自分の姿も映し出されている。夫にとって、妻が「極悪妻」となるか、それとも「極楽妻」となるか。それは夫自身の人間性と生き方にかかっている。

『問題のあるレストラン』

 2本目は、真木よう子主演の『問題のあるレストラン』(フジテレビ系)だ。真木、脚本の坂元裕二氏、そしてスタッフ共に、2013年に放送された『最高の離婚』(同)のチームである。

 田中たま子(真木)は飲食サービス会社に勤めていたが、高校時代の友人で同僚でもある女性が、社長(杉本哲太)や男性幹部からあまりにひどい仕打ちを受ける。それに激怒したたま子は「バケツで水かけ」という復讐を決行、クビになってしまう。

「より良い仕事がしたい」と思うのは男性も女性も同じだが、まだまだ男性中心の会社は多い。女性たちは、パワハラやセクハラに耐えながら働いているというケースもある。しかし、人としての尊厳まで踏みにじられては黙っていられない。たま子は仲間を集め、会社が経営する店の近くでレストランを開くという反撃に出る。

 リーダー的存在を演じる真木はもちろん、ひとクセある(=問題のある)仲間たちも実にパワフルだ。映画『私の男』(日活)の二階堂ふみ、NHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』の松岡茉優、同じく朝ドラ『ごちそうさん』の高畑充希などが集まり、若手有力女優の競演となっている。シリアスとユーモアのバランスも絶妙で、働く女性たちへの応援歌的なドラマだ。

碓井広義/上智大学文学部新聞学科教授

碓井広義/上智大学文学部新聞学科教授

1955(昭和30)年、長野県生まれ。メディア文化評論家。2020(令和2)年3月まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。慶應義塾大学法学部政治学科卒。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年、テレビマンユニオンに参加、以後20年間ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に『人間ドキュメント 夏目雅子物語』など。著書に『テレビの教科書』、『ドラマへの遺言』(倉本聰との共著)など、編著に『倉本聰の言葉――ドラマの中の名言』がある。

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