アジア太平洋地域の自由貿易を高らかに謳い上げる合意ができるのか、それとも先の見えない漂流の道をたどるのか――。あのTPP(環太平洋経済連携協定)交渉が、ついに大詰めを迎えている。
新聞報道によると、先週金曜日(6日)17時半過ぎのこと。首相官邸を訪ねたロバート・ルービン元米財務長官は、安倍晋三首相に「劇的に機運が変わった。オバマ米大統領も一生懸命やろうとしている」と強調し、全体合意の前提となる日米2国間協議の合意に向けた首相の政治的決断を懸命に促したという。
元来、TPPは2006年5月に発効したシンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4カ国(P4)の経済連携協定だ。同協定には、加盟国間のすべての関税の90%を撤廃することなど自由貿易を拡大する意欲的な規定が含まれている。日本は歴代政権の優柔不断と通商官僚のサボタージュが重なり、アメリカ、オーストラリア、マレーシア、ベトナム、ペルーが加わって10年3月にスタートした「拡大交渉」に乗り遅れた。交渉への正式な参加が初めて許されたのは13年7月のこと。参加が遅れた分だけ、不利な交渉を余儀なくされてきたのは周知の事実だが、当初からそれぞれの国内の反対派をおもんぱかって反目を続けてきた日米の2国間協議が、ここへきて大きく進展し始めたという。
とはいえ、高まる期待とは裏腹に、今秋までに合意できなければ、米国で来年の大統領選挙に向けた動きが活発化して協定そのものが宙に浮いてしまうのは確実だ。今、参加12カ国が合意するには、いったい何が必要なのか。今回は、大きな鍵となっている5つの争点を整理しておこう。
●牛豚肉の関税を引き下げか
よく知られているように、日本は拡大交渉への参加に当たって、農業分野を聖域としていた。同分野でこれまで通りの保護貿易を温存することを「国益を守る」と称し、それを条件に反対派を抑えて交渉に臨んできたのだ。このため、米国は対抗上、弱体化した「デトロイト・スリー」を保護するために自動車分野を聖域とすると主張し、日米2国間協議は最初から険悪なムードの中でスタートしたのだった。
ところが、ここへきて両分野で大きな進展があったと米国側が高く評価しているという。いずれの分野でも関係者は「交渉内容は言えない」と固く口を閉ざしているが、30年以上にわたって日米貿易摩擦の消えることのない火種だった牛肉分野で、日本は現行38.5%の関税を今後十数年かけて9%まで引き下げる提案をしている模様だ。
これと同様に、懸案だった豚肉では、全米豚肉生産者協議会(NPPC)が1月26日に米議会に送った書簡で「重要な進展があった」と述べるほどの提案を日本がしているらしい。報道によると、1キログラムにつき最大482円を課す差額関税制度を50円の従量税に切り替える案が話し合われている。