本連載前回記事では、「セグメンテーション」の意味はしばしば誤解されており、それは製品ではなく顧客を分割することであると書きました。実際そう理解したほうが、マーケティング戦略のもう1つの柱である「ポジショニング」との違いが明確になって好ましいといえます。ポジショニングとは、繰り返しになりますが「自分たちの製品やブランドが誰と競争するのか(競争しないのか)を考えること」です。
顧客に対する戦略的な意思決定は、セグメンテーションとターゲティングの2段階に分かれています。しかし、製品・ブランドに対してはポジショニングの1段階しかありません。一見どうでもいいことのように思えるかもしれませんが、少なくとも筆者としてはアンバランスな感じがするので、以下のように整理してみます。
セグメンテーションとポジショニング
顧客のセグメンテーションとは、潜在顧客をいくつかのグループ(セグメント)に分けることで、ターゲティングとはそこから優先するセグメントを選ぶことです。前者は全体としての構造を把握することで、後者はそこから狙うべき対象を選び取ることです。製品・ブランドに対する戦略的意思決定についても、このような2段階に分けることはできないのでしょうか。
実は、ある市場の製品・ブランドを競争関係の強弱でサブマーケット(単にカテゴリなどと呼ばれることも多い)に分割する、市場構造分析とか市場の規定といわれる手法があります。これは、前回紹介したように製品セグメンテーションと呼ばれることもあるので、これを顧客に対する意思決定におけるセグメンテーションに相当するものと見なしても問題なさそうです。
市場構造分析では、同じサブマーケット内では製品間の競争がより激しく、サブマーケットが異なると競争が弱くなるよう製品が分割されます。ただし、このような分割は、顧客のセグメンテーションほどうまくいかないことがよくあります。そうした場合、互いに大なり小なり競争し合う製品群を、1つの空間における位置の違いで表す方法がよく用いられます。お互いに競争しているほど近い位置になるよう、各製品の布置(マップ)を決めるのです。
このようにして製品・ブランドの競争関係の構造を把握できたら、今度は顧客セグメントに対するターゲティングのように、攻めるべきサブマーケットなりポジションなりを選択します。これをポジショニングと呼ぶなら、以下の表のように、対顧客と対製品・ブランドの意思決定はいずれも2段階になります。
ただし、この表では市場構造分析とポジショニングの境界が破線で、しかも少し上にずれていることに注目してください。ふだんマーケターがポジショニングと呼ぶ行為は、製品・ブランドの競争構造の把握まで含むことがしばしばあります。つまり、ポジショニングという概念のあいまいさが、このようなズレを生んでいるということです。