「できちゃった婚」狙いの女性たち?恋愛リスクを避ける若者
9月30日、筆者の新刊『恋愛しない若者たち ~コンビニ化する性とコスパ化する結婚』(ディスカヴァー21)が出版された。テーマは「恋愛しなくても、結婚はできる!」。
ここ数年、20代男女から、「恋愛は面倒」「コスパに合わない」との声をよく聞く。一方で、9割の若者は言うのだ。「いつかは(恋愛)結婚したい」と。
この矛盾を解消するためには、「結婚に恋愛は要らない」と、いったんスパッと切り離して考えるしかない。それが本書を執筆したきっかけだった。
本連載前々回記事『若年女子の7人に1人にセフレ?セックス離れする若年男子、年長者にも体を許す女子』では、「若年女性の7人に1人がセフレ(セックスフレンド)がいる」と紹介し、前回記事『交際ゼロで結婚する若者たち 「恋愛→告白→セックス→結婚」の日本は異質?』では、そんな彼女たちがセフレと本命とを分ける手立てとして「告白」を重視していると書いた。
一方の男性サイドは、「振られるリスクを思うと、告白したいとは思わない(友達のままでもよい)」(リクルートマーケティングパートナーズ/2014年)といい、「告白」文化が現代の若者を恋愛から遠ざけている一因ではないかとも解説した。
だが、若者が恋愛を避ける理由は、それだけではなさそうだ。
みなさんは若い頃、好きな人に告白したりデートに誘ったりする際、恋愛のリスクを考えたことはあるだろうか。少なくともバブル世代の筆者には、ほとんど意識した覚えはない。ところが、今の20代の周りには「恋愛リスク」がいっぱいだ。
一般的な恋愛リスクを挙げてみると、
・セクハラ(セクシャルハラスメント)=性的な嫌がらせ行為
・パワハラ(パワーハラスメント)=権力や立場などを行使した嫌がらせ行為
・ストーカー=付きまとい行為
・DV(ドメスティック・バイオレンス)=配偶者からの肉体的、精神的暴力行為
・デートDV=デートの際に行われる肉体的、精神的暴力行為
・リベンジポルノ=元恋人の裸の写真や動画などをネット上に流出させる嫌がらせ行為
といったところだ。これらのほとんどは、1990年代半ば以降、さまざまな事件を通じて「ヤバイ」「危ない」と命名、警戒されるようになった現象だ。
なかでも「ストーカー」は、99年に起こった桶川ストーカー殺人事件で、「リベンジポルノ」は、13年の三鷹ストーカー殺人事件でそれぞれ広く知れわたった言葉だ。当時、ニュースや新聞などで見聞きした方も多いだろう。
どうしてこのようなリスクが増えてきたのか。
「恋愛リスク」を避ける若者たち
遡ること、90年代。エイズやさまざまな性病をメディアから見聞きするようになり、少しずつ恋愛における「リスク」と呼べるものが露呈した。その結果、若い男女は「キケンな恋愛」を避けるようになってきた経緯がある。
その後、インターネットなどの普及により超情報化社会が到来、現代はリベンジポルノを含む「別れた後の復讐劇」が衆人環視のもとに行われてしまうのだ。
さらに、バブル崩壊後、何かと「自己責任で」という大人たち。私たちの取材でも、04年のイラク人質事件に際して小泉内閣が発した「自己責任」という言葉を、「これからは国も会社も守ってくれないんだ」と、非常に重く受け止めていた若者も多かった。
リストラや就職難が続くなか、恋愛リスクに関しても自己負担を強いられる。そう思うと、つい「下手に恋愛をしないほうがいい」と考えてしまうのも納得だ。
半面、ウェブサイト「R25」が14年、アイ・リサーチの協力のもと調査した結果によると、20~30代女性のうち「恋人に自身の裸(または下着姿)を撮られた/撮らせてあげた」経験がある女性が、16.5%と約6人に1人もいた。その理由は、
1位 恋人に頼まれてしかたなく=51.5%
2位 恋人に勝手に撮られた=24.2%
3位 恋人に喜んでもらいたかった=21.2%
と、多くの女性が積極的だったわけではないことがわかる。
私たちの取材でも、「(撮らせるのを)断ったら浮気されると思った」「『好きだからこそ撮りたいんだ』と言われて、拒否できなかった」と答えた女性たちのほとんどが、後悔から深くうつむいた。
「でき婚」を恐れる男性
過去のブラック恋愛で傷付き、新たな恋に一歩を踏み出せずにいる女性たち。片や、男性のほうは女性とはまた違ったリスクがある。
それが、加害者と勘違いされる「冤罪リスク」と「でき(ちゃった)婚リスク」だ。
「冤罪」と聞くと「痴漢」を想起するが、セクハラやストーカーも同様だ。自分にはその気がなくても、ちょっとした発言やメールのやりとりで相手女性に「セクハラ」と指摘されるかもしれない。あるいは、何度も「僕のメール見てくれた?」と送るだけで、「もしかしてストーカー?」と見られるかもしれない。
今回の取材でも「若い女の子には、駅で道を聞くのも躊躇する」と話す20代男性が複数いたのも象徴的だ。
一方、これを「リスク」と呼ぶのは多少抵抗もあるが、「でき婚」のほうはどう回避しているのか。
セフレらしき女性が2人ほどいる26歳のA男は、「親が気に入る相手じゃなきゃ、セックスはしても恋愛はしない」と豪語。そして「もし(できちゃった婚で)順序が逆、なんてことになれば、親に申し訳が立たない。だから、付けるもの(コンドーム)は付けています」と話す。
23歳のB男に至っては、彼女の排卵日をスマホの「妊活アプリ」でシェアし、安全日以外は性交を避けているという徹底ぶりだ。
彼らの本音は、
・「順序が逆なのは困る」
・「ある日突然、彼女に『できちゃった』と言われるのが怖い」
など。取材では、20代前半の若い男性ほどその声が多かった。
そして近年、彼ら20代男性に大きな衝撃を与えたのは、13年9月発売の「an・an」(マガジンハウス)の、特集「男が結婚を決める理由」だ。
ここで「an・an」は、「タイムロスが少ない“授かり婚”は、アラサー女子に大きなメリット!」と「でき婚」を前向きに取り上げ、「基礎体温をつける」「半同棲して避妊は気にしない」など、成功のコツも伝授したのだ。
筆者の周りの「彼氏がなかなかその気にならない」と気を揉む女性たちは、「いいこと聞いた」と、皆一様に顔をほころばせたが、男性陣の反応は真逆。当時のインターネット上の書きこみを見ても、
「もうそんな時代なの?」
「ケンカ売ってるんですかね」
「女、怖え~!」
など、多くが後ろ向きであった。
恋愛が趣味化?
もっとも、彼らが未来永劫「子どもは欲しくない」と思っているかといえば、そうではない。
明治安田生活福祉研究所の調査(12年)でも、「(できれば)いつか子どもが欲しい」と考える20代の未婚男性は7割近くもいる。特に昨今は「イクメン」がステイタスだから、子を持つ夢は男性の間でもそれなりに強いのだ。
ただ、順序が逆(妊娠→結婚)になれば人生設計が変わってくるし、ある日突然、彼女に「できちゃった」と言われるのも怖い。だから女性と違って、授かり婚に後ろ向きな男性が多いのだろう。
周りがあれこれ脅す状況もありそうだ。
24歳のC男は先日、LINEで男友達から回ってきたメッセージに驚愕した。先週の飲み会で、友人男性に「できちゃった結婚する」と告げられたばかりだが、別の友人から「どうやらアイツ、彼女がコンドームに穴を開けていたらしいよ」との噂が回ってきたからだ。
事の真偽はわからない。ただC男は、「いまは結婚を焦ってる女子も多いって聞くから、十分気をつけないと」と怯える。
酒屋の長男として育ち、厳格な父親から「男は女を養うべきだ」と言われて育った。若いのに今時珍しいタイプだが、それだけ責任感も強い。「まだ稼ぐ力もないのに、いきなり妻と子を養うなんて、絶対無理」だと言い切る。
ちなみに11年、ネットエイジアが18~25歳の男女に「できちゃった結婚」について聞いたところ、世間一般のでき婚は「アリ」とする男女が約4割いたが、自分自身のでき婚を肯定する声はわずか17%のみで、6割以上は否定的だった。
90年代半ば以降、さまざまな形で恋愛リスクが露呈した。そのリスクを覚悟してまで恋愛を取りに行くかといえば、そうでもない。「ほかに楽しいことはいくらでもある」のだ。だから、どんどん恋愛が「趣味化」していくのだろう。
あらゆる理由から、コスパ(コストパフォーマンス)に合わなくなってきた現代のリアル恋愛。では今の若者は、どんな恋愛・結婚なら「コスパに合う」と考えるのか。次回は「コスパ恋愛」や「コスパ婚」の最新事情をご紹介しよう。
(文=牛窪恵/マーケティングライター、世代・トレンド評論家、有限会社インフィニティ代表取締役 編集=平澤トラサク/インフィニティ)