水素水は、水素を多く含有した水のことです。タレントや有名スポーツ選手や歌手などがテレビやネット上で愛飲していることを表明し、ここ数年人気が高まっています。特にタレントのDAIGOが3月にテレビ番組の中で水素水を生成するボトルを普段から持ち歩いていると明かした後には、水素水ブームが一気に盛り上がりました。
ところで、水素水は実際に体にどのような効果をもたらすのでしょうか。
古くから電解陰極水が健康にいいとの言説はあり、その真偽を探る研究は20年ほど前から行われてきました。しかし、結論はまだ出ていないというのが現状です。
人間の体は、外から侵入してくる菌やウイルスなどの異物を撃退するために、白血球から活性酸素を放出します。それによって感染から守るのです。一方で活性酸素は、体内の細胞の膜を構成する不飽和脂肪酸を酸化によって酸化脂質に変化させ、細胞や組織が老化する原因となることが知られています。
呼吸によって酸素が体に取り込まれ、血液中の赤血球が酸素を各組織の細胞へと運び、糖や脂肪などから生体エネルギーを産生する際に消費する酸素の2%程度が活性酸素になるといわれています。活性酸素は体にとって必要不可欠な役割を持っていますが、必要以上に産生されると体の老化を早めてしまうのです。
ところが、水素を大量に取り込むと、活性酸素による細胞の酸化を抑制できるとの見解があるのです。もし、細胞の酸化を抑制できるのであれば、病気を予防し老化を遅くする効果が期待できます。
この点について、さまざまな研究事例があり、水素が細胞の酸化を抑制する可能性が高いと考えられるというところまではたどりついています。しかし、正直なところ、いずれの実験もあくまで実験室レベルです。実際に人間の体が、水素水を飲用した上での定量的研究は発表されていません。
水素の抗酸化作用が証明されたとしても、どれくらいの量を摂取すればその効果が期待できるのか、またそれは水素水で何リットルくらいに相当するのか、具体的な検証はなされていないのです。「健康にいいらしい」などと気軽に高価な水素水を飲み続けても、実際にどのような効果があるかは未知の世界といわざるを得ません。
とはいえ、水素水を摂取して健康を害するとの見解はなさそうです。水素水の健康効果に懐疑的な立場の意見も、研究結果が信じられないというものがほとんどで、科学的に否定しているわけではありません。
現状としては、「信じるも信じないもあなた次第」という域を出ていません。ただし、水素水ブームに乗って、大して水素を含有していないのに高額な値段設定をしている商品もあるので、購入する際は十分に見極めるように心がけてください。
(文=豊田美里/管理栄養士、フードコーディネーター)