何かつらいことがあった夜や、忘れてしまいたいことがある時、成人の多くはグラスを傾ける。その際、やがて飲み潰れて眠るまでの酒量には個人差があるだろう。その日の体調やメンタル面、飲酒歴によっても重ねる杯の数は違ってくる。
だが、そんな特別なシチュエーションとは関係なく、短時間で大量の飲酒を行えば誰でも(健常者であっても)一様に、心調律(心リズム)異常のリスクが著しく高まる――そんな調査結果が4月25日付「European Heart Journal」に掲載された。
この飲酒と心調律の関係についての調査に臨んだのは、ドイツ・ミュンヘン大学病院内科助教授Moritz sinner氏らの研究陣。
彼らは地元ミュンヘンで毎年秋に開催される伝統的で有名な通称「バイエルンのビール祭り」、オクトーバーフェストに集まる愛飲家たちに着目し、その会場でデータを収集した。
祭りと酒量と不整脈
調査期間は2015年のお祭り開催中の16日間で、3000人を超えるボランティア参加者(平均年齢35歳、うち30%が女性層)の協力を仰ぎ、「心臓の健康と飲酒パターン」を追跡した。
調査に際しては、飲酒運転の取り締まりでも知られる呼気(=酒気)探知器での測定に加え、スマートフォンを使用した心電図の測定も繰り返し実施された。そこで集積されたデータ集を、今度はドイツ・アウクスブルグの地域住民を対象として行われた長期アルコールコホート研究の成果と比較検証するという段取りが組まれた。
その結果、ボランティア参加者の約31%が、(陽気に飲めや騒げやの)このビール祭りの開催期間中に「心不整脈」を経験しているという事実が判明した。およそ3分の1を占めたその割合は、一般集団で通常みられる傾向(1~4%)よりもはるかに高い数値に相当する。
また、不整脈は、脈が異常に速くなる「頻脈」と逆に遅くなる「徐脈」に大別されるが、今回の調査では4分の1に過度の心臓鼓動(洞性頻脈)が読み取れた。
だが、そんな調査結果に対し、アーマンソンUCLA心筋症センター(米ロサンゼルス)のGregg Fonarow氏は、なんらの驚きも示してはいない。