歯科医院といえば、むし歯の治療をしてもらったり、入れ歯をつくってもらうところだと、大概の人は思っているだろう。
ところが近年は、歯周病とさまざまな内科的な病気との関連が注目され研究が進んでおり、歯科医院が生活習慣病などの予防医療に大きな役目を担えるのではないかと期待されている。なかでも「糖尿病」との関連は強く、「歯周病治療により高血糖が改善する」という報告が数多くあげられている。
歯周病は慢性の感染症で、その細菌が血液中に入り込めば、特に心臓や脳、子宮などでの炎症を引き起こすおそれがあり、唾液に混じって気道に流れ込めば肺炎を引き起す可能性もある。
そうした全身のさまざまな病気を予防するという意味で、歯周病の治療や予防が果たす役割は大きいのだ。
歯科医と内科医の連携を模索
このことを歯科医師の共通の認識とすべく、セミナーやイベント、執筆などを通じて問いかけている歯科医のひとりが、日本アンチエイジング歯科学会会長の松尾通氏だ。歯科医と内科医の連携を模索している。
特に糖尿病専門医である西田亙氏を招いた講演会を歯科界で積極的に開催し、「口腔ケアから、糖尿病の予防と治療」を推進している。西田氏は糖尿病専門医でありながら、自身の医院で患者に歯ブラシを勧めている。
加えて推奨しているのが「ラクトバチルス・ロイテリ菌」という乳酸菌だ。一般的に乳酸菌といえば、腸内フローラを改善する目的で摂るものと考えるが、そればかりではなく口内の環境改善にも働き、その殺菌作用で炎症を抑制してむし歯や歯周病、口臭などの予防と改善に一役買うという。
無駄な医療費を削減するために歯科医ができること
松尾氏によると、これまで国が目指してきた健康長寿における歯科の目標は「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」という「8020(ハチマルニイマル)運動」だったが、このメッセージはすでに行き渡っているので、これからは機能面に目を向けた新しい活動方針をスタートさせなければならないという。
それが口腔機能に栄養や運動などの「生活管理を加味した疾病予防の複合メニューの開発」である。
「歯科には、ほかの診療科にはないいくつかのメリットがあります。ひとつは、クリーニングや矯正などの病気でない方も来院するということ、2つ目は、通院頻度が高く対面時間も長いので、生活習慣病の予兆を発見できるチャンスや予防のためのアドバイスをする機会があるということ、また食事や栄養についての指導を行いやすいということです」
健康な歯を維持し、口腔機能を低下させないことが、食べることの機能を維持するだけでなく、さまざまな病気の予防とも関わり健康長寿をかなえる――。それを理解すれば、私たち患者も、もう少し積極的に歯科検診を受けるべきだと思うだろう。
政府は6月9日の臨時閣議で、国家経営の基本方針となる「骨太の方針」の「健康増進・予防の推進」において、「口腔の健康は全身の健康にもつながることから、生涯を通じた歯科健診の充実、入院患者や要介護者に対する口腔機能管理の推進など歯科保健医療の充実に取り組む」という文言を明記した。
この方針に則って、今後、無駄な医療費を削減するために歯科医が力量を発揮してくれることを期待したい。
(文=後藤典子)