「ドクターヘリ」は、北海道から沖縄まで全国41道府県で51機が運航中だ。世界の空に目を向けると、現在、欧米諸国をはじめ主要国のおよそ1300拠点で「ドクターヘリ(emergency medical helicopter)」が活躍している(認定NPO法人救急ヘリ病院ネットワーク[HEM-Net]調べ)。
ヘリコプターを救急医療に活用したきっかけはなんだろうか。
ドクターヘリ先進国・ドイツは交通事故死が3分の1に激減
朝鮮戦争(1950~53年)やベトナム戦争(1960~75年)だ。戦地の入り組んだ山岳や森林、前人未到のジャングルや河川・湖沼が進軍を阻み、戦況を左右した。米軍は、負傷兵をいち早く後方の野戦病院に送りこむために軍用ヘリコプターを導入し、負傷兵の致死率を大幅に引き下げた。
1970年にドクターヘリを早々と先駆けたのは、2010年に就航40周年を迎えたドイツだ。急激なモータリゼーションの産物である「交通戦争」が深刻化していたドイツは、アウトバーンで交通事故が起きると、事故現場で救急治療を施し、傷病者を搬送するヘリコプター救急システムを立ち上げた。
現在、78機が昼間だけの無料運行で就航中(医師が添乗)で、運営は自動車連盟などの民間非営利団体が行い、運営費は公的医療保険などで賄っている。
ドイツに続いて、米国がハイウェイや高速道路で発生した交通事故や自然災害による傷病者の搬送を始めたのは1972年だ。現在、24時間体制で846機が就航中(有料/救急救命士、看護師が添乗)。運営は、病院、民間事業社、非営利団体、州、警察、消防などの多様な搬送主体が関わるため、運営費も、公的医療保険(メディケア、メディケイト)から民間医療保険まで多種多様な拠出体制を整備している。
その後、ドイツや米国の目覚しい実績を見た欧米諸国が次々と参入した。たとえば、スイス(1973年〜)は、民間非営利団体のスイス航空救助隊(REGA)が搬送主体となり、24時間体制で13機が就航中(有料、医師が添乗)。運営費は、REGAの会費や寄付などで賄っている。
フランス(1983年〜)は、救急医療庁(SAMU)が搬送主体となり、昼間のみ30機が就航中(無料、医師が添乗)。運営費は、国、病院、自治体、寄付などが拠出している。
そのほか、オーストリア(1983年〜/84機)、イギリス(1987年〜/34機)、イタリア(1987年〜/51機)、スペイン(1989年〜/25機)、オランダ(1995年〜/4機)などの主要国だけでおよそ1000機が運用中だ。
また韓国は、2011年に、2拠点で運用をスタートさせている。社会基盤の成熟度、運営予算化、国土の広域性などのハードルがあるため、アジア諸国の普及は、今後の宿題かもしれない
ちなみにドクターヘリ先進国のドイツは、当然ながら試行錯誤の末に、合目的かつ標準的な運用システムの構築に至っている。たとえば、ヘリコプターの巡航速度が時速200kmであることから、半径50km内外の範囲を各機の担当地域と設定したため、担当地域の最も遠いエリアでも、約15分で現場に到達できる。
つまり、平均約8分で医師と傷病者が出会い、その場で治療を受けられるようにシステム設計した。その結果、導入後、交通事故の死亡者は3分の1に激減した。