発達障害の社会的な認知は広がっているが、発達特性がある子どもの支援は十分理解されているとはいえない。
取材者も発達特性がある子の親である。発達特性の表れ方には個性があるだろうが、人と関わることが苦手で同級生とうまくいかなかったり、感情のコントロールが苦手で突発的に癇癪を起こしてしまったり等、生活面で課題を感じている。「どうしてちゃんとできないの?!」と叱責すれば、ますますパニックを起こしてしまう。
発達特性がある子をどう支援してよいかわからない……。そんな悩みを持つ保護者も少なくないのではないだろうか。
発達障害の当事者であり、長年特別支援の教育現場に携わってこられた学校心理士で一般社団法人障がい児成長支援協会代表理事、中部学院大学非常勤講師の山内康彦先生(以下、山内先生)は、「特性がある子どもがなぜ苦しんでいるかを考え、寄り添う気持ちが最も大切」と話す。
発達障害の支援が必要になる子とは?
――発達障害と定型発達の境目は明確ではありません。
「発達障害の基準はありますが、境目は明確ではありません(グレーゾーンがある)。私は『肥満』に似ていると感じています。男性の場合、ウエスト周囲径が85cm以上でかつ血圧・血糖・脂質の3つのうち2つ以上が基準値から外れると、『メタボリックシンドローム』と診断されます。私はウエスト84.5cmなんです。看護師さんからは『山内さん、メタボリックシンドロームじゃなくてよかったね』と言われました。ところが、人間ドックで医師から出た診断は『肥満傾向あり』。肥満の人と同じように、薬物療法や食事療法を勧められました。私は発達障害についても、『発達障害の傾向あり』と診断されたら、発達障害の子と同じ支援が必要だと考えています。
別の例えでお話ししますと、高齢者が住みやすい『バリアフリーの家』は、すべての人間にとって住みやすい家です。発達障害の子のための支援と考えるより、すべての子どもにとって優しい支援だと考えた方がいい。特別支援教育は教育の原点だという専門家もいます。これからお話しする支援は、すべての子どもに対して行うことが大事なのではないかと考えて、話を始めさせていただきます」(山内先生)
受け入れてくれる大人を増やすことから
――発達特性がある子は、人と関わることが苦手なことが多いです。学校生活の中で同級生とうまくいかず、自己肯定感が低くなってしまい、生きづらさを抱えることも少なくないようです。
「学校や幼稚園でうまくいかないといいますが、特性がある子を受け入れる器が学校や幼稚園に十分にないのです。親や教師は仲良くなれる子どもの友達を探そうとしますが、それは大変難しいことです。発達特性がある子の周りの子どもは、未熟で(発達特性がある子を理解して関わっていける)対応能力がありません。発達特性がある子と仲良くなれる子どもを探すよりも、まずは、その子を受け入れてくれる大人を見つけることが大切と考えます。
私自身もASDとADHDの傾向が強くあるといわれてきましたが、美容師の子どもだったので、学校で友達ができなくても、美容院のアシスタントの方やたくさんのお客さんが私を受け入れてくれました。自分を受け入れてくれる大人から『山内くん、確かにその通りだけど、その言い方はちょっと傷ついちゃうな』とやさしく指摘されると、素直に聞くことができました。
発達特性がある子には、医師や心理士(師)等の資格や免許を持った専門の指導者が必要だといわれます。しかし、私は免許や資格だけではないと思うんです。一番有効なのは、発達特性がある子を受け入れてくれる大人に囲まれることです。受け入れてくれる大人との関わりの中で、自己肯定感を下げずに人との関わり方を学んでいけると思います。
発達特性がある子は、相手が『自分を受け入れてくれるかどうか』を瞬時に判断します。自分と関わる大人が自分を受け入れてくれるとわかると、その人が大好きになって、言うことを聞くんです。逆に『この大人は僕のことが嫌いだ』『この大人は僕のことを受け入れてくれない』『この人は僕とは合わない』と判断すると、その人が大嫌いになって言うことを聞かなくなってしまう。厳しく叱る教師や親に対して、子どもが暴れたり言うことを聞かなくなったりしてしまうのは、このパターンです」(山内先生)
のび太が身につけた生きる術
「『ドラえもん』のキャラクターの例でお話ししましょう。しずかちゃんは誰からも嫌われません。だから、しずかちゃんはジャイアンにもスネ夫にも臆することなく接することができます。
ところが、のび太は違います。ジャイアンには殴られるし、スネ夫には嫌味を言われます。ところが、しずかちゃんには優しくしてもらえます。出木杉くんにもいじめられません。のび太は、相手を瞬時に(ジャイアンやスネ夫でないかを)判断します。これは、のび太がそれまでの成育歴の中で身につけた、生きていくための術(すべ)なんです」(山内先生)
苦しみに寄り添う支援を
「だからこそ、まず周りの大人たちが子どもに寄り添い、一緒にやっていく姿勢を見せる必要があります。定型発達の大人は多数決の論理で、発達特性がある子に対して『お前が変だ』『お前が合わせろ』と要求します。しかし、この考えが彼ら彼女らの生きづらさを助長している気がするんです。
発達特性がある子に対して『どうしてこの子たちは苦しんでいるのか?』と寄り添う気持ちが一番大切です。定型発達の子を基準にすれば『なぜあなたはできないの?』『みんなやっているでしょ?』となります。でも、そうじゃないんです。
『忘れ物をしてはいけない』ことは、わかっているんです。わかっているけれど、忘れ物をしてしまうんです。『椅子に座らなければならない』ことは、わかっているんです。わかっているけれど、椅子に座れないんです。支援は、そこから始まっていかなければならないのです。
優秀な子や定型発達の子だけではなく、定型から外れた子にも寄り添い、受け入れていく姿勢が、すべての人間――LGBTQや高齢者、黒人等あらゆる少数派――が生きやすい社会へつながっていくと思います」(山内先生)
まずは専門医の検査を受けて
――子どもが発達障害の傾向があると感じたら、何から支援を始めたらよいでしょうか。
「子どもの発達障害の専門医は、小児発達外来といわれます。まずは、小児発達外来で発達検査をしていただきたいです。理解ができていないのか、理解はしているけれど苦手なところがあるのか、どんなところが苦手なのか、を検査する必要があります。小児発達外来は絶対数が少ない上に多くの患者を抱えているため、初診にも検査にも時間がかかりますが、専門医に必要な検査をしてもらい、どれぐらい凸凹があるのかを知ることが大切です。
もう一つ、病院と連携して心理士(師)らが行っているのが『応用行動分析』です。なぜその子たちが問題を起こすのかを観察・分析した上で、支援に活かす方法があります」(山内先生)
叱る指導ではなく、思いをくみ取った支援を
「自閉症の園児Aくんが幼稚園で友達を叩いてしまう問題行動がやめられないと、相談を受けたことがありました。Aくんの行動を1週間観察した結果、おもちゃがあるときはお友達を叩かないことがわかりました。Aくんは叩きたくて叩いているのではなくて、『貸して』という言葉がうまく言えなくて、代わりに叩いてしまっていたのです。
翌週1週間、Aくんと一緒に、おもちゃで遊んでいるお友達のところに行きました。お友達の肩を優しく叩き、『おもちゃを貸して』と言って手を出しました。そうすると、お友達はおもちゃを貸してくれます。Aくんにおもちゃの借り方のお手本を見せたのです。
次の週には、私の前にAくんを出して、一緒におもちゃを借りに行きました。その次の週には、Aくんは一人でおもちゃを借りに行きました。私はAくんから5m離れたところで見ていました。またその次の週には、Aくんは一人でおもちゃを借りに行き、私はAくんから15m離れたところで見ていました。
このように段階を踏んで、Aくんに『お友達の肩を優しく叩いて手を出すとおもちゃが借りられること』を教えました。これを『積極的行動支援』といいます。叱る指導ではなく、発達特性がある子の思いをくみ取って、彼ら自身が問題行動を起こさず生活できるように支援することが大事です」(山内先生)
●山内康彦プロフィール
岐阜県多治見市生まれ。岐阜大学大学院教育学研究科修了。保健体育と養護学校(現在の特別支援学校)免許取得。岐阜県の公立学校に20年間勤務後、教育委員会の教育課長補佐として就学支援委員会と放課後子ども教室等を担当。その後、学校心理士とガイダンスカウンセラーの資格を取得。現在は一般社団法人障がい児成長支援協会代表理事を務めながら、学会発表・全国での講演活動を積極的に行っている。著書に『「特別支援教育」って何?』『特別支援が必要な子どもの進路の話』(ともにWAVE出版)がある。明蓬館SNEC高等学校愛知・江南学院長。中部学院大学非常勤講師。(株)グロートラス取締役。