月間アクティブユーザーが16億5000万人(2016年4月時点)を超えるといわれる、世界最大のソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)のフェイスブック。最近、このフェイスブックをしのぐ勢いでユーザー数が急増しているのが、インスタグラム。通称「インスタ」だ。
フェイスブックの場合、ユーザーの多くが写真と文章をセットでアップするが、インスタはあくまでも写真をメインとする写真共有アプリ。そして、インスタが特徴的なのは、全ユーザーの4割近くを10~20代が占めるといわれるなど、若者の圧倒的支持を集めていることだ。
若者の間で「自撮り」が流行した背景には、インスタの普及も密接に関係している。この点こそ、コアユーザーが30代以降の中年ばかりになりつつあるフェイスブックとの大きな違いだ。
実際、総務省の「平成27年版 情報通信白書」によれば、フェイスブックとインスタの年代別利用率は以下の通りとなっている。
(左から、20代以下、30代、40代、50代)
●フェイスブック/49.3%、38.3%、36.8%、30.8%
●インスタグラム/16.0%、7.8%、3.5%、2.0%
フェイスブックには30代以上の中年が多く、インスタには20代以下の若者が多いという構図がわかるだろう。40代ながらインスタを利用している筆者の実感としては、20代以下のインスタユーザーはもっと多い印象がある。
ところが、そのインスタに最近、中年男性のユーザーが増えているという。しかも、そうした中年男性が若い女性をフォローしまくってコメントしたり、誰に需要があるのか不明な自撮りをアップしたりして、若者ユーザーから「オヤジはインスタをやるな!」と反発の声が上がっているのだ。中年男性は、なぜインスタで若者に嫌われてしまうのか。そこには、明確な理由があった。
センスない中年の写真にドン引きする若者
「インスタで中年男性が歓迎されない背景には、インスタ本来の『ノリ』がわかっていない人が多いという事情があります。インスタが30~50代の男性向きのSNSかといえば、そうとはいえないのは確かでしょうね」
そう語るのは、SNSに詳しい雑食系恋愛ジャーナリストのおおしまりえ氏。おおしま氏によれば、中年男性がインスタに向かない理由のひとつは、写真のセンスのなさにあるという。
「インスタは写真がメインのSNSだけに、スマートフォン(スマホ)による撮影センスの差が露骨に出ます。若者は『写メ偏差値』が高く、アプリなどで撮影した写真を加工することに慣れていますが、中年男性には慣れていない人が多く、『写メ偏差値』が低い。まず、その点でインスタに向かないのです」(同)
例えば、比較的フォロワーの支持を集めやすい猫の写真でも、中年男性の場合、なんの工夫もなく猫を撮影しただけの「残念な構図」の写真が非常に多いという。
「フェイスブックは文章がベースとしてあるため、『写メ偏差値』の低さが目立ちませんが、インスタでは写真のセンスが何より重要。おしゃれ感が売りのSNSなのに、そこに突然、おしゃれじゃない中年男性が入ってくれば、メインユーザーである若者たちが拒絶反応を示すのも当然の話です」(同)
また、中年男性には長い文章を好む人が多く、フェイスブックではコメント欄で議論する中年男性もよく見かける。一方、20代以下の若者の場合、LINEのやりとりひとつでも長文を好まない傾向があり、おおしま氏も「こればかりは世代の感覚の違いでしょう」と指摘する。もともと、文章で説明を加えず、写真のみを共有して楽しむインスタは、若者に最適化されたアプリなのである。
若い女性をフォローして勘違いコメント
とはいえ、中年男性がアップする「残念な写真」を見たくないというだけであれば、最初からフォローしない、もしくはフォローを外せば問題は解決する。
しかし、中年男性のインスタ利用に若者が反発するのは、写真のセンスだけが問題ではない。中年男性には、若い女性ユーザーをフォローしまくり、コメントをつけまくる、困った利用者も少なくないのだ。
そう聞いて「え、それの何が問題なの?」と思った人は、すでに「残念な中年ユーザー」の仲間入りを果たしている可能性が高い。
「フェイスブックに比べてインスタは自己満足度が高く、同じものを好きな人たちが、仲間内でワイワイ盛り上がる要素が強い。例えば、若い女子が、自分のファッションを見せたくてアップした自撮りに対して、そのブランドが好きな人たちが『これ、かわいい』『これもかわいい』と盛り上がるイメージです。
ところが、その感覚をわかっていない中年男性は、ファッションの自撮りに『かわいい!』と容姿をほめるなど、求められてもいないコメントをしてしまうのです」(同)
写真をアップする20代女子のユーザーが求めているのは、中年男性の「かわいい」ではなく、同じ女子からの称賛のコメント。そこが理解できていない中年男性が非常に多いという。こうした空気を読めない中年男性が若者のインスタユーザーに嫌われてしまうのは、ある意味当然といえるだろう。
寒すぎる中年男性の「リア充」アピール
インスタで中年男性が嫌われる理由は、ほかにもある。それは、中年男性にありがちな「もっと自分をよく見せたい」アピールだ。
SNSは基本的に「自分の友達とつながって、人生を豊かにするためのもの」とされている。しかし、いつしか「自分を大きく見せる」ためのツールとして利用する人が増えてしまった。それが「中年男性を悪目立ちさせてしまう一因になっている」と、おおしま氏は分析する。
「『もっと自分をよく見せたい』というアピールについては、若い女子よりも中年男性のほうにドロドロしたものを感じます。女子のSNSの表現は、自撮りによる『かわいい』アピールや激しい『キラキラ女子』アピールなど、わかりやすくて直球です。
一方、中年男性の『自分をよく見せたい』の場合、『若者のことがわかっている俺』『最新のツールを使いこなす俺』など、どこかゆがんだ表現に変わってしまう部分があります。若者からすると、そういう表現こそが『それ、全然なじんでる感じしないけど?(笑)』みたいな嘲笑の対象なんです」(同)
こうした「もっと自分をよく見せたい」のバリエーションのひとつが、イタいとしかいいようがない中年男性の「リア充」アピールだ。高級ホテルのトイレでの自撮り、若い女子と一緒の写真など、インスタには「ハイソな自分」をアピールする中年男性ユーザーが数多くいるという。
「一緒にいた女子だけの写真をアップするならまだしも、自分も入れてしまうあたりが本当に『寒い』と思います。パーティー好きで、やたら分割した写真を上げる『パリピオヤジ』などもいますが、若者はスマホでインスタを見ています。分割写真では小さすぎてわからないんですよね。それ以前に、中年にもなってパリピ(パーティーピープル)を気取るのもどうかと思います」(同)
芸能人やセレブならともかく、一般の中年男性のリア充アピールなど、インスタでは誰も求めていないのである。少なくとも、若者のユーザーは。
もちろん、中年男性だけではなく、中年女性のユーザーも若者から「イタい」と思われているという。しかし、中年女性の自撮りは「同世代や上の世代の男性が称賛するから、それなりにニーズがある」とおおしま氏。自撮りを含めて、中年男性の写真にはそのニーズが存在しないのだ。
「もちろん、中年男性がインスタをやること自体はいいと思います。でも、インスタの主役はあくまでも20代以下の世代。基本的にあなた方を歓迎しているSNSではないんですよ、という点を認識した上で楽しむべきだと思いますね」(同)
現在、30~50代でインスタをやっている男性は、これを機に自身のインスタライフを見つめ直してみる必要があるかもしれない。
(文=青柳直弥/ライター)