最近、小中学生女子のなかに「インフルエンサーになりたい」という子が出てきた。「有名で人気者になれるし、洋服とかただでもらえるんだって。写真を投稿するだけでいいなんて楽だよね」と言う。
インフルエンサーとは、多くの人に対して影響力を与える人のことを指し、最近ではSNS上での発信を通じて情報発信することで購買を促進する「インフルエンサーマーケティング」も注目されている。すっかり憧れの存在となったインフルエンサーだが、実はさまざまな問題を抱えている。インフルエンサーが抱える問題について見ていきたい。
フォロワーを買うのは当たり前、影響力はお金に
「友だちがフォロワーを買っていたと思う」とある20代女性は言う。その友だちは読者モデルなどを務めたこともある女性で、今も企業にコスメなどをもらってInstagramに写真を投稿している。
「フォロワーは数千名いるけど、投稿への『いいね』が少ないし、フォロワーが外国人とか投稿なしの人も多くて」と、疑った理由を教えてくれた。「それから、フォロワーも急に増えた気がする」。その友だちが本当にフォロワーを買ったかどうかはわからないが、SNSのフォロワーは安価に購入できる。
フォロワー販売サービスのほか、オークションサイト、Twitterでもフォロワーや「いいね」は当たり前のように売っている。販売するものは、Instagram、Twitter、TikTokなどのフォロワーや「いいね」、YouTubeの再生数など、さまざまなものが対象だ。フォロワー一人あたり5円程度の値段で売れ、オークションサイトを見るとすでに売れているものも多数ある状態だ。
インフルエンサーの場合、試供品をもらったりイベントなどに招待される以外に、広告主である企業から謝礼を受け取ることも多い。受け取る謝礼は案件によっても変わるが、数万円から数十万円になることもある。
影響力の指標の一つとされるのがフォロワー数だが、たとえばフォロワー数が1万人の大台に乗せると謝礼の額や仕事内容が変わるため、有料でもフォロワーを増やすことには意味があるのだ。
アカウントは日本人のものだと高くなり、安価なものでは外国人ばかりのことが多い。実在アカウントが乗っ取られてフォローさせられているケース、架空のアカウントでフォローしているケースなどがある。
しかし当然、Instagramなどでは規約でフォロワーの販売、購入は禁止されている。第三機関のサービスを使ってフォロワー獲得を図るとアカウントに規制がかかる可能性があり、買うべきではない。
対策として世界中で「いいね」数非表示に
問題はそれだけではない。英国の王立公衆衛生協会の調査では、5つの主要なソーシャル・ネットワーキングサービスのなかで、Instagramが若者の心にもっとも有害なSNSとされた。自分を他人と比べて落ち込んだり、「いいね」数を競って危険行為に手を染めるユーザーがあとを絶たないため、批判を浴びたのだ。
その結果、自分以外の「いいね」数は非表示とするテストが開始され、好評だったためテスト対象の国は拡大し続けている。フォロワー数や「いいね」数で競っていたインフルエンサーとしては非常にやりづらい状態となってしまった。
なお、これまで「いいね」数非表示とした国では、フォロワー数と関係なく、インフルエンサーの「いいね」数が一律に減っているという。すべての国で、フォロワー数が5000人〜2万人のインフルエンサーは「いいね」が3〜15%も減少したのだ。ただし日本だけは結果が異なっている。フォロワー数が1000〜5000人と、10万〜100万のインフルエンサーは、このテスト以降「いいね」が約6%増えたのだ。逆にブラジルでは、インフルエンサーの「いいね」数が一番減少した。
テスト対象は拡大しており、とうとう本国である米国でも「いいね」数非表示テストが始まっている。Instagramは、自分のいいと思うものに「いいね」をさせようとする原点回帰を狙っているのだ。今後運営会社は、インフルエンサーには新しい収益源を考えているという。
借金漬けになるインフルエンサーも
インフルエンサーの問題は、その他にもある。インフルエンサーといえばキラキラしたリア充写真で知られるが、身の丈を超えて無理してまでそういう生活を装う人も少なくない。たとえばリゼッタ・カルヴェイロさんという女性は、インフルエンサーに憧れ、インスタ映えする服やグッズ、旅行などにお金をかける生活を3年間続けた結果、110万円の借金を背負うことになったという。
日本でも、おしゃれなInstagram投稿で人気となったGENKINGさんが、月収20万円程度だったにもかかわらず、ローンを重ねて借金が1000万円に膨れ上がっていたことをのちに告白している。ブランド品を買っては撮影、投稿し、質屋に売ることを繰り返す生活をしていたというのだ。
2018年には、吉本興業所属の人気漫才コンビ「ミキ」のツイートが、ステルスマーケティング、通称「ステマ」ではないかという疑惑が起きたこともある。「大好きな京都の町並み!!京都を愛する人なら誰でも,京都市を応援できるんやって!詳しくはここから!」とハッシュタグ「#京都市盛り上げ隊」「#京都国際映画祭2018」「#京都市ふるさと納税」を付けて、京都市のふるさと納税のページのURLとともにツイートしていた。
このツイートは京都市から依頼されたもので、Twitterなどで20万人のフォロワーを持つタレントが2回ツイートする契約で、一回50万円、計100万円が支払われていた。明らかなPR投稿だったが、「PR」などの広告ということを示す表記は含まれていなかったことが問題視されたのだ。
Instagramのキラキラしたリア充写真には多くの人が憧れを持つが、裏ではお金が支払われていたり、インフルエンサー自身が無理していたりすることも少なくない。誰にでも見られる媒体が失われつつあるなか、SNSでの発信力が宣伝として使われることはある意味当然といえるだろう。しかし、インフルエンサービジネスはまだまだ過渡期であり、問題が山積みだ。インフルエンサーの情報を受け取る側の我々のリテラシーが求められているのを忘れてはならないだろう。
(文=高橋暁子/ITジャーナリスト)